教えて、春日井くん



上手なおねだりというのが思い浮かばないまま、私は春日井くんに抱きついたまま顔を上げる。



「春日井くん、ごめんなさい」

「ん?」

「ホラー苦手ってわかったのに、観ようなんて言って」

顔をくしゃっとさせて春日井くんは「そんなのいいよ」と笑ってくれた。

甘やかすみたいに頭を撫でてくれる春日井くんに私は精一杯のおねだりをしてみる。



「映画、消して?」

聞こえてくる残虐な音に耐えながら、目に涙が浮かぶ。



「お願い、春日井くん」

必死にねだってみると、春日井くんの両手が私の耳を塞いだ。



そして、そのままキスをされる。

音が遮断されたままのキスは、絡まる音がダイレクトに伝わってくる。私を捕らえるような春日井くんの視線が扇情的だった。



今度は別の意味で、ドキドキしてしまう。

春日井くんがいつもよりも大人っぽくて、私からすべてを奪うようなキス。


私から離れた春日井くんがゆっくりと唇を動かす。

声が聞こえなくても、その二文字は形でわかる。


「……私も」


可愛い春日井くんも、いじわるな春日井くんも、ぜんぶが好き過ぎてたまらない。







  <教えて、春日井くん> 完


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