プラチナー3rdーfor Valentine

浜嶋が紗子を連れてくるのは、何時も「ア・コード」だ。今日も浜嶋と席に着いてオーダーを通してもらったところだった。今しかないかなと思って、紗子はサブバッグから取り出した紙袋を浜嶋に渡した。

「あの、これ……、良かったら食べてください。雪乃さんの手作りには敵わないと思うんですけど、いつもお世話になってるので……」

浜嶋に渡したのは、チョコチップの混ざったカップケーキだ。小さなケーキを二つ入れてある。浜嶋が、自分で作ったのか、と驚き顔で聞くので頷くと、すごいな、と微笑んだ。

「俺は料理は出来るけどケーキとかは全然でな。お菓子って、材料の計量が繊細だから、むかないんだよ」

へえ、浜嶋でも苦手なことがあるんだ。そう言うところをもう雪乃さんは知っているんだろうな。そう思ったけど、悔しくないのはやっぱり和久田のおかげなんだろうなあと思う。

「ありがとうな。ありがたくいただくよ」

そう言って、片目をつむる。こういうことが様になるのが浜嶋のカッコいい所だ。憧れる気持ちは、何時まで経ってもなくならないんだろうなあ、なんて考えた。

「あっ、浜嶋さん良いもの貰ってる」

それを見つけたのはクリスだった。丁度オーダーした食事を持ってきてくれたところだった。

実は、山脇シェフにも渡そうと思っていたので、必然的にクリスにも用意した。ケーキ一つずつだけど、ラッピングもしてある。

シェフとクリスに渡すと、クリスは嬉しそうに口角を上げた。

「うわあ、手作りですね。味わって食べよ」

「そんな大したものでもないわよ?」

日曜日にちゃんと和久田に報告しようと思いつつ、こんなに喜ばれると、こそばゆい。和久田もこんな風に喜んでくれるのかな、と思ったら、ちょっと耳の先が熱くなった。いい予行演習になったな、と思った。

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