人権剥奪期間
その刃物は昨日先生が持っていたものよりも大きくて、あたしの体に深く食い込んでいるのがわかった。


あたしは咄嗟に竜也の手を握り締めた。


それを抜かないで。


そう願いをこめて竜也を見つめる。


竜也は一瞬瞳を泳がせたが、すぐに突き刺さっている刃物へ視線を向けた。


そして、一気に引き抜いたのだ。


途端に血があふれ出す。


痛みがあたしの体を電光石火に貫き、吐き気がしたと思ったら血を吐いていた。


叫ぶことも、抗うこともかなわないまま、横倒しに倒れこんだ。


竜也たちの顔がかすんで見える。


どうして?


信じていたのに。


どうして?


意識を失う寸前、あたしは夢を見ていた。


竜也と付き合い始めてすぐの頃、2人で人気映画を見に行ったときのこと。


それはアクション映画で、スクリーンの中で俳優たちが走りまわり派手なアクションをしていた。


それを見終わったとき、竜也は興奮した様子で言った。


『俺、絶対に映画監督になる!』


目を輝かせて未来を夢見る竜也がかっこよかった。


心のそこから応援したいと思った。


『うん! あたしどんなことでも力になるよ!』


あたしはそう答えたんだ。


だから、竜也は、あたしを……。


そこまで考えたとき、あたしの意識は途切れた。
< 117 / 182 >

この作品をシェア

pagetop