白豚王子育成計画〜もしかして私、チョロインですか?〜
 その長い葉っぱを開きながら、「まったく簡易キッチンのある軟禁部屋なんて聞いたことがありませんよ」なんて愚痴るからには、ショウはそれなりの待遇を受けているらしい。

 話の流れで、私は聞く。

「そういや、ショウの妹さんは……?」
「保護ができ次第、ショウと一緒に私の養子にすることで国王陛下と話が進んでおります。病気の件はきちんと医師の診断を受けてからですが……私の保有する避暑地でゆっくり静養してもらう予定です」

 その話に安堵する。
 ほんとうに良かった。本当に良かったんだけど……我ながら、聞くタイミングを間違った。

 だって、料理長の手から目が離せないんだもん。

 それは料理長の働く男の手がセクシーだからではない。断じて違う。
 なせなら……あれだよね? 緑の笹みたいな葉っぱの下から出てくるものって言ったら、昔ながらのあれだよね?

「しかし……こんなものを本当にリイナ様がお喜びになられるとは到底……」

 料理長は言う。「お嫌なら捨ててしまっても構いません」と。

 えぇ、誰がこんな日本人の心を捨てられましょうか。
 正直、焼きおにぎりだって邪道です。
 日本人といったらこれでしょう! シンプルイズベスト。ロードオブ日本食。

「ぜひ頂戴します!」

 私はひったくるようにして、それを奪った。

 白米輝く三角おにぎり。

 思いっきり頬張ると、お米の甘みと塩っけが私の脳髄をジワジワと刺激する。口に入れるたびにホロッと崩れる絶妙な握り具合は神業。だけど派手さはない。これぞプロというスゴ技もない。だからこそ、家庭的な美味しさに私は思わず瞳を潤ます。

「リイナ……事前に僕も毒味しておいたんだけど、泣くほど美味しいの?」

「ショウもようやく手に入ったと喜んでいたのですが……その柔らかい米がそんなに美味しいですか? 見ていても手に塩を付けて握っただけだったのですが……」

 ふむ。どうやら食文化の違いゆえか、このシンプルであるからこそ完成された美味しさが二人には伝わっていないらしい。

 ――ショウさん、あなたはこの世界で活躍することがまだたくさんあるみたいだよ。

 心の中でそう語りかけつつ、私は指に付いた米粒をペロリと食べた。

 ――とりあえず、次は焼き海苔か梅干しが欲しいなぁ。
 

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