望まない結婚なので、3年以内に離婚しましょう。


 あいつ……とは優希くんのことだろう。
 一度だけ郁也さんの前で、私にも想い人がいると言ったことを思い出した。

 あれ以来その話はしてこなかったけれど、優希くんを見て気になったのかもしれない。


 郁也さんの質問通り、優希くんは私の──私の、好きな人……だと思う。


 優希くんとバイトが被った日は本当に嬉しくて、彼の言葉一つで感情が左右される。

 彼と付き合えるかもしれないという期待すら抱いていた。


 その気持ちは今も変わらないはずなのに、どうして複雑な心境に陥っているのだろう。

 どうして私は──すぐに肯定ができず、言葉に詰まらせているのだろうか。


「無視するつもりか」
「私が誰を好きであろうと郁也さんに関係ないですよね」


 郁也さんの恋愛事情に踏み込んだことはない。
 むしろ私に迷惑がかかっているレベルである。


「関係ある」
「はい?」

「俺たちは……夫婦なんだ。互いのことを知っておいて損はないだろう」


 だからといって、互いの想い人について話をする必要があるだろうか。


「よくわからない人ですね」

 つい冷たく返してしまうけれど、間違ったことを言ったつもりはない。

 郁也さんの本心はわからないし、一生理解できそうにない。

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