イノセント ~意地悪御曹司と意固地な彼女の恋の行方~
普段は店長や本部からやってきたお偉いさんが打ち合わせをしていることの多い事務室。
お説教をされるときや契約更新の時くらいしか入ることがない部屋のせいか、妙に緊張する。
それに今はお昼前の込み合う時間なわけで、シフトに入っている萌夏がいなければスタッフの負担は増えてしまう。
それを承知でしないといけない話って・・・そう思うと嫌な予感しかしない。

「昨日、あのお客さんともめたの?」

え?
いきなり言われ、意味が分からずポカンと口を開けた。

あのお客さんって、昨日のストーカーだよね?
もめたのかって・・・

「君がホールに出て行って、お客さんを脅していたって書き込みが本社のホームページにあってね」
「はあ?」

バカバカしい。
脅していたのはあのストーカー野郎の方。
私は間違ったことをしていない。

「どうなの?」

穏やかで、少し優柔不断なうちの店長。
40過ぎてから初めて接客業を始めた人らしく、要領がいいとは言えないけれどまじめでうるさいことをあまり言わないいいおじさんだと思っていた。

「萌夏ちゃん?」

黙ったまま返事をしない萌夏に、店長が首を傾げる。

「私は、脅してなんていません。むしろ、脅したのはあいつの」
「こら、相手はお客さんだからね。あいつなんて言うんじゃないよ」
「え、だって・・・」

そうか、店長はあの男がストーカーだって知らないんだった。
明奈ちゃんは言いたくなさそうだったし、私も黙っていたから。

「悪いけれど、今日は厨房の方に入ってくれ。今後のことは改めて話そう」
「それって、」

「どうせ耳に入るだろうから正直に言うよ。本部から君をホールスタッフから外すように言われている」

そんな・・・酷い。
< 14 / 219 >

この作品をシェア

pagetop