イノセント ~意地悪御曹司と意固地な彼女の恋の行方~

遥の弱音

目の前に広げられた膨大な資料。
全て都庁建て替えプロジェクトに関するものだ。

「やはり個人的な恨みでしょうか?」

雪丸の声に、遥の手が止まった。

「さあな、まだわからん」
不機嫌そうな社長の声。

この場にいる誰一人として遥が談合をしたとは思っていない。
馬鹿が付くくらいにまじめで正直者の遥がずるいことなんてするはずがない。
しかし、一旦出た疑惑は簡単には消えない。

「心あたりはないのか?」

ここまでするのは遥を恨んでいるからだと、社長は考えているらしい。

「ありませんね」

そりゃあ貪欲に仕事をとってきたが、恨みを買うほど悪どいことをした覚えはない。

「逆恨みってことはないのか?」
「それこそ、わかりませんよ」

逆恨みなんて理不尽に一方的に向けられる悪意、予想も回避もできない。

「最近、トラブルはなかったのか?」
それでも社長は原因を探そうとしている。

「トラブルって・・・」

「おそらく、平石グループ内部に詳しくて次長のことも知っている人間でしょう」

内部の人間ねぇ。
社内事情に詳しくて、遥を陥れたいと思うほど恨んでいる人間。
入社して一年もたたない遥には想像もできない。

「やはり部外者にしては社内事情に詳しすぎますから、会社を恨んでのことでしょうか?」
ネットに上げられた文書を睨み続ける雪丸。

雪丸の意見もわからなくはないが、平石グループは職場環境も待遇もかなり恵まれていると思っている。
会社を恨んでって言うのも考えにくいが・・・

「とにかくもう少し調べてみよう。しばらく遥は表に出るな」
「・・・わかりました」

社長の言葉に不満がないと言えばうそになる。理不尽だとも思う。
しかし、今は従うしかないだろう。
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