イノセント ~意地悪御曹司と意固地な彼女の恋の行方~
ブーブーブー。
さっきから携帯電話が鳴りやまない。

まぁ、仕方ないか。
遥が着替えに部屋へ戻ったすきに出てきてしまったんだから、相当怒っていると思う。


「ボスを怒らせてどうする気だ?」
玄関から駆け出す萌夏に、雪丸の冷たい言葉。

そりゃあ仕事を紹介してもらった恩はあるけれど、遥はボスではない。
ご主人様ではあるけれどね。

「後悔するぞ」

ドアが閉まる瞬間かけられた声に、萌夏は振り返ることをしなかった。

あああ、本当にうるさい。
ただでさえ新しい職場で緊張しているのに、ゴチャゴチャ言わないでほしい。

そもそも、いきなり履歴書を書かされてパートで事務の仕事に就けると言われたのが3日前。
アシスタントだから心配する必要はないと言われたけれど、会社勤めが初めてな萌夏には不安しかない。
いくら遥が口をきいてくれて縁故での採用だからって、緊張はする。

ピコン。
メールの着信。

あ、遥からだ。

『会社に着いたらホールで待っていろ。担当者が行くから』
『うん、ありがとう』

なんだかんだ言って、遥のおかげで仕事ができる。
お世話になったクラブのママには申し訳ないけれど、昼間の仕事に就けることはやはりうれしい。
多少浮かれた気分で、萌夏は指定された会社へ向かっていた。
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