「…………きみ、ほんとずるい」

 そう、じゃあ、しばらくうちに居なさい。
 ぼろぼろと泣きながらチーズ入りのオムレツを食べて、ぐすぐすと泣きながら事のあらましを説明した私に母はそう言って、父は母の言葉に「そうだな、そうしろ」と右に(なら)った。
 ふたりの言葉に甘えて、有給中は実家に滞在した。携帯も解約して、新しいものを契約し直した。けれども、始まりがあるものには必ず終わりが訪れるもので、たくさんあると思えた二週間の有給も、今日で終わり。
 朝、起きて、父と母に朝食を作った。二週間お世話になったお礼を述べて、実家を出た。明日から仕事かぁ~と、二週間ぶりの自宅に帰った私を待っていたのは、玄関扉の下から差し込まれた、数枚のメモの切れ端だった。

「……何、これ、」

 扉を閉めて、鍵をかける。
 足を踏み入れた際に、踏んでしまったそれを拾い上げて、書かれている文字を見る。

 ── 話がしたい
 ── 連絡して欲しい
 ── 会いたい

 切れ端には、短い文しかない。けれど、字で分かった。彼の字だ。それを理解して、ふと、思う。彼は、ここに来たのか、と。
 ないだろうなと思っていたけれど、念のため実家に帰っておいてよかった。
 ぐしゃりと切れ端を丸めて、ゴミ箱へとつっこむ。
 話なんて、もうない。
 連絡なんて、しない。
 彼にはもう、会わない。
 ぼたぼたと床に落ちていくそれを乱暴に袖で拭って、次の恋は上手くいくといいな、なんて妄想に(ふけ)ってみた。
< 6 / 27 >

この作品をシェア

pagetop