冬に花弁。彷徨う杜で君を見つけたら。

笠と杖

古道詣での装束は、
遍路装束とあまり変わらない。

白装束に、杖、笠姿。

敢えていうなら、
笠の文字と材か?

源平の隠れ公達が、
紀州の檜に、補強の竹と桜皮を
使って編んだのが始まりの
笠。
これを、古道詣で使われる様に
なったという。

遍路笠をはじめとする、
編笠でよく使うのは、竹。

実は竹笠は重い。
土地で取れる材料の違いだろうが、
古道詣での檜笠は、
その軽さに 助けられる。

そして、笠に書かれる言葉が
遍路笠とは違う。

「笠、何も書いてないんやー。」

チョウコが自分が被る檜笠を
内側から 覗く。
昼の太陽を透かし、
所々にある補強桜皮が 黒◆の
模様を映す。

「長く詣でる方とかは、先々で
笠にメッセージ入れたりします
し、笠を売る地域の名前とか
入れてる笠もありますよ? 」

リンネが 不思議そうにする
チョウコに答えた。

「いや、ほらさオヘンロさんの笠
って、大師さんのコトバとか、
書いてるのんテレビでみるし。」

チョウコがツンツンと
笠をツツクと、キコも頷く。

「 四字熟語みたいなんやわ。
なんや、お大師さんも一緒に
旅してますよぉ、みたいなの」

「『同行二人』ですかね。
古道詣を踏襲して遍路がある
みたいなので、どうでしょ?」

そう頭を傾げて、リンネは

もともと山伏さんを、
先達に古道詣は道中に
祓いや御祓をしていくので、
戒めとか導きを笠に記す事が
なかったのかもしれませんね。
と説明した。

「古道は99王子参拝しますけど、
それにちなみながらも、敬意で
遍路は88箇所廻るとかいいます
し、霊場としては古道が先みたい
ですよ。金剛杖も発心門で、
先達にはじめて代え杖で貰え
ますし。じゃあ、いきますね。」

そういって、リンネは手にした
古道杖を振り下ろして
歩き始めた。

朝はあんなに天気が良かった。
そのままなら、
寺の駐車場では 素晴らしい
山の展望が広がっていた、はず。

が、今、寺は薄い霧に
包まれている。

「なんかー、なんかやな。」

チョウコは 思わず口を開いた。

3人の出で立ちは、
白装束に厄除けの赤い肩帯に、
檜笠、手に古道杖で、
足にはスニーカーを履いている。

木立の中をリンネの
後をついて行く。

霧の中に四方ほどの石の囲いと
木作りの説明があった。

「 日本最初の焼身往生の場、
火定跡って、これ、、」

読んだキコが呟いた単語に、

「 火定ってなんなんー?」

チョウコがリンネの肩に
手を掛けた。

「 火定は、生きながら身を
焼いて、諸仏を供養するんです」

 上人の体は、灰になっても
舌が残って経を読む声が
響き、無数の鳥がそれに
声を合わせて鳴いたそうですと、

石の囲いの辺りに手を合わせて、

「 秋になると、ここには青紫の
リンドウが咲いて、それが苔の
緑に映えて、綺麗ですよ。」

まるで寄り添うみたいに地面に
張って咲くのですと 2人に
話して
歩みを続けた。

チョウコとキコは、
ゴクリと唾を飲んで 石囲いを
横に階段を登る。

寺は古道の「かけぬけ道」
にある「黄泉の国の入り口」。

石畳は既に苔むして、霧の中に
何か見えそうな幻想を誘い
平衡感覚が麻痺しそうになる。

「え、誰かいてへん?」

チョウコとキコが、リンネの
白装束を掴んだ。

そのまま、お構い無しに進む
リンネに連れられたのは、

霧に浮かぶ
山道脇の 『像』だった。

「いや、やわぁ、、」

キコが ホッとした声をすると、
同時に リンネが2人に告げた。

「ここが、奥の院です。」

お堂の前で
リンネが手を合わせれば、それに
習って2人も手を合わせる。

そしてその先には、
キコが山の中で聞いた鐘の音の
正体『亡者のひとつ鐘』が
あった。

「じゃ!お先にー。」

お賽銭を入れて鳴らそうとする
チョウコに、

「待って下さい!」
リンネが指を指したのは

横に備え付けられた。

『ひとつ鐘を突く方は、
秘密血脈をお持ち下さい。』

との文字と、、白封筒。

「 浄土への約束手形です。
大日さまと縁をむすぶ、
お大師さまの血統書です。
棺の中に入れてもらうと、
浄土に導びいてくれるんです」

リンネが、チョウコとキコに
封筒を渡す。
賽銭を渡して
リンネに言われるまま
チョウコもキコも、『秘密血脈』
なるモノを
白装束の懐へ大切に入れた。

「じゃ!お先にー。」

チョウコが


ひとつ鐘を 鳴らす。

『 コーーーーーーーーーーン 』

キコも鐘をならして、
『 コーーーーーーーーーーン 』

リンネが最後に鳴らす。
『 コーーーーーーーーーーン 』

深くなる霧の中に
3つの鐘の音は静かに消えた。
そうして、
ここに思い残すことは終えたと、
更に濃い
霧に纏われながら
女3人 亡者の出会いに向かう
のだ。

まだ旅は、始まったばかり。
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