冬に花弁。彷徨う杜で君を見つけたら。

キコ、宿ある集落まで。

「にゃあーっ!!」
『ガラっ、、』

何回目かの古道杖にすがりつきで
今回もなんとか
尻餅回避したキコに

「キコさーーん!行けるかー!」

白い影法師になった
チョウコの声が 登ってくる。

下り坂に疲れ果てて、
立ち込めてくる霧の中に
ボンヤリ歌碑が
出てくる頃には
膝が
ガクガク笑ってるのか
足が震えてるのか
もうキコは、
どっちでも良くなっていた。

「そ、遭難したり、してなぁ。」

リンネがいてて、
そうならないと思っていても
脳内疲労感は
MAX遭難中。

そうして、ようやく、なんとか
楠の久保旅籠跡の休憩所に
夕暮れ近くに到着したわけで。

「あたしもう、途中からさ、
いっそ 転がって降りたろか
思ったわ。足の感覚ないねん」

チョウコは焦燥ただよう
くったりとした
纏め髪を直してベンチに足を
投げ出した。

まだ山深い、この楠の久保。

「昔から、旅人の嫌気がさす
場所だったんですよ、この辺り
になると。だから、ここから、
まだまだ遠い桜茶屋を見せて
泊まれと客を引いたそうです。」

リンネもさすがに、
水場に
手をかざして山の水を飲んでは、
装束に籠る汗を逃している。
そんなリンネのスニーカーも
山屑で汚れて白い。

「なんやろ、そーゆーのん
まるで昔話のワルモンやねぇ。」


キコも、リンネの真似をして
水を飲んでみるが、
何故か口の横から
水が垂れた。

疲労で
所作への神経が
蔑ろにされている証拠だが
そんな事も構わず

「あ!美味しい!ええお水。」

山の水をキコは堪能する。

楠の久保旅籠跡
といっても
昔は数十あった旅籠も
今は石積みだけ。

太い杉の間を日落ち前の霧が
漂い、何度かコウモリが
飛ぶのを視界に見たりした。
そろそろ
ベッドランプを
お互い頭にセットをする
頃合いだろう。

「なあ、キコさんの旦那さん
病気してたんやんな。長いこと
看病とかしてたんちゃうの?」

檜笠を背中に回して
手拭いを頭に巻きながら
チョウコが、キコに
再び聞いてきた。

「そやねぇ、、
新婚1年やろかなあ、病気
しはって。それも1年やのよ。
うちが
旦那を看れたのんね。」

新婚旅行から
帰ってからの、異動したての
仕事は
互いの励まし合いの中
キコはなんとか
持ちこたえていた。

それも旦那=トシに依るところが
大きかった為で、
旦那=トシも 軍隊と言われる
コメ配属には
噂どおりにストレスフルだった
はずなのだ。

そんな事、おくびにも出さずに。

1年後には急性進行の難病で
余命1年という状態に
すでに、なっていた。

自死するか、病になるか。
そんな部署や長が
ゴロゴロしている 『会社』。

「病気が早ようて、手続き
している間にどんどん進んで
仕舞いに、家に帰らしてあげま
しょうて、お医者さんも 匙なげ
はって。旦那の両親が、
実家に連れて帰りはってんよ」

キコも頭に手拭いを巻いて、
上からヘッドライトを
着ける。
リンネ曰く、手拭いは
虫除けらしい。
ヘッドライトに虫が
集まるからだと言われて、
チョウコも眉を潜めていた。

「新婚1年で、発病して余命
宣言って、、ご主人の、、
姑さんとか、怒ってきそう。」

リンネが薄暗い霧の中に
ヘッドライトを点灯させる。

「そりゃあ、最初は恨み節やった
よ、うちに。嫁としてとか。
でもなぁ、実家に息子を連れ
帰って、最後はオムツの世話
までやりはって。うちも、
休みにやったけど、手伝って。
大の男を、大人3人でなあ。」

キコはとめどもない
情景を思い出すような顔で

「満身創痍やったわ。看取った時
義理のおかあはん、言うてた。
やから、最後の1年介護して
もろて 良かったんよ。
悔いのう、
義理のおかあはんも、
おとうはんも、看てくれた。」

だから、

異動部署の仕事に飛び回わり
その後の試験もキコは
受け進めた。
キャリアを積んでいけたのだ。

けれども、
仕事から泥のような
状態で帰るのは

亡夫=トシになった事で
ローン返済が免除になった
1人きりのマンションで、

キコの喪失感は
もう どうにもならなかった。

「うちも、お陰で仕事、一生懸命
やれたし。それでも、ちこっと
悔いはあるし、もしも
旦那さんに会えたらってなぁ」

卍マークの前で、
ヤリ◯ン旦那に中指を立てて、
懐かしい銘柄の缶コーヒーで
号泣するチョウコに
誘われた事を
頭に浮かべて、
キコもヘッドライトを
ONにした。

「まるで、なんかの探検隊やん」

チョウコがライトを頭に着けた
リンネとキコ見やる。

「幻のツチコを探して!!
古道探検隊は、今日も行く!」

子どもみたいに合いの手を
入れたキコが、
リンネに先を促した。

「霧がなければ、まだこの時間
もう少し明るいんですけど。」

リンネが不安そうに
先頭に立って歩き方出す。


『ザザッ、』


休憩した東屋を出て、
再び急勾配の坂を
もうチョウコもキコも
足をひきずる様にして
リンネに続く。

『ズル』「うやあ!!」

霧と夕刻の目先の悪さに
茶屋跡までの坂よりは
全然緩やかなはずの坂を
何度も足をひっかける。

「焦らないで、ゆっくり!
それこそ 滑ったら骨折ります」

霧に白く装束が浮ばせる
リンネに
何度も大きな声で
注意されるチョウコとキコ。

周りを見ながら等も
出来るはずもなく
只ひたすら、足元をライトで
照らして30分下れば、

ようやく、、円座石なる
スポットについた。

「あたし、フクロウの声って
はじめて聞いたわ。」

チョウコの呟きに

来た道を1番後者のキコが
振り替えると、
確かに
『ホーーオホーーオ』と
低音の鳴き声が聞こえて、
それと共に
道の暗さがだんだん
増していた。

「神様達がお喋りされるのに
座布団の代わりに敷いた石と
言われるパワースポットです」

リンネが相変わらず
マイペースな口調で2人に、
あそこに梵字が見えますか?と
指を差したが、、

見上げる苔むす巨大なひとつ石に
彫ってあるはずの3つ文字は
薄暗くて、
チョウコもキコも、ただの
黒い影にしか
見えなかった。

「なんや、1番の見所やのに
もったいない感じするわぁ。」

そんなチョウコの文句を
聞きながら
キコが電話で写真を撮ろうと
構える。

「ちょ、キコさんやめときや!
絶対なんか映るって!よう、
写真撮る気になるなあ。」

チョウコがそんなキコに
ギョッとして止める。

「そやけど、写真にしとくと、
後で画像明るくしたら、
ええ感じになる事もあるんよ?
月明かりに梵字とか
出来るかもしれへんし。」

キコは構わず
シャッター音を鳴らした。

「映るも何も、チョウコさんは
何の為に亡者の出会いを、
歩いてるんですかね?って、
チョウコさん怖がりですか?」

リンネがチョウコを揶揄ながら、

文字は
中世に彫られた、
サトリを意味する梵字だと
付け加えて教える。

そして、
3人でその場で祈るのだ。

西方極楽浄土の
阿弥陀如来、

東方浄瑠璃世界の
薬師如来、

南方補陀落浄土の観世音。

この三山で3人の『サトリ』が
お茶をしながら
談笑するのを

かつて、
ギョウニンのキコ
ナサケのハジメ
コメのトシとの

ランチタイムを
黒い影に重ねて

キコはもう1度シャッター音を

「うちは、今、ここで
会えてるんかもしれへんなあ」

声にならない言葉と
一緒に鳴らした。


山を降り、
民家の間を抜ければ

山に夕霧がかかって
画の如く灯る
明かりが
里の景色になる
長閑な村に
ようやく
キコ達3人は到着する。

今日の宿は、もうすぐそこだ。
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