冬に花弁。彷徨う杜で君を見つけたら。

立春の理科室で玉子を3つ立てる

一夜あけての、早朝の理科室。

3人の女が必死に
玉子を机に立てている。

「あかん!立てへんやん!
さっきの、じいちゃん嘘ばっか
ゆーたんちゃうん?う!あ、」

古道巡礼の旅人は朝が早い為か、
朝食も早くに準備された。

いかにもな
焼き鮭、卵焼き、ひじき煮、
味噌汁、ごはん、ポテサラの
和朝食を食べ終わり、
膳を片付けた机で

チョウコが唸る。

「 いややわ、そないスッと
いきはれへんから、縁起モン
なんとちゃいはります? 」

ゴロンと 何度目かの玉子を
転がして、
キコが また玉子を垂直にする。

「茹でたら、立てにくいとか
あるんじゃないですかね?」

リンネが、そっと玉子から
手を放すが、玉子は無情に
ゴロンとなる。

「塩、机にふって立てるゆーやつ
小学校のマジック本で見たで」

「あぁ、もう時間ちゃうのん?
30分には出るんやないのん?」

「集中!チョウコさんも、
キコさんも、これが最後です」

「お!全集中!!」

「虫の息ぃ!」

「キコさん、それ死んでます。」

「・・・・」

「虫の呼吸やろ、そこは!」

「チョウコさん、変ですよ。」

「しずかーにってことやん、
なあ?そーゆー意味やんな?」

「ほなら、花の呼吸ぅ!どう?」

「鼻呼吸やん!」

「アホですね。」

「やめてくれはれへん?ネタの
説明しはんのん、いややわ。」

「「「あ!!」」」

「「「立った!!」」」


理科室を食堂にした机の上に
3つの玉子が
垂直に立った。

キコが、静かに電話を構えて
写真にすると、
真似をしてチョウコも
電話で写真を撮ってすぐに
SNSに上げている。

「見てー!!えー感じやろ?」

チョウコがキコとリンネに
電話の画面に表示した
SNS投稿を見せる。

そこには、

『 自然の家で、朝に会った
老夫婦に、立春は玉子が立つと
教えてもらって挑戦!!
ほんまに玉子が、立った!』

と書かれている。

「これ、捏造ちゃいますのん?
まるで1回で出来たみたいに
書いてはるやなんて、ずる。」

「盛ってるってゆーてや。」

「これ、生じゃなくて、茹でてる
玉子って書いて下さいよ。
格段難しかった んですから。
あ、時間!もう行きますよ!」

リンネの言葉に慌てて、
チョウコとキコは 茹で玉子を
手に手に取って、椅子から立つ。

時間は立春早朝。
まだ 外は暗く、ヘッドライトを
点けて古道を再び歩く予定。

リンネは、
チョウコとキコに
今日の古道は 小雲取だと告げる。

亡者の出逢いも此の道で終わり。
チョウコは昨日の夜、リンネから
それを聞いた時から気合いを
入れていた。

だから、
自然の家にもう1組泊まる
老夫婦から『立春の玉子立て』を
玉子のお裾分けを貰いながら
聞くと、
必死になって立てていたのだ。

「そやけど、うち、『立春には
玉子が立つ』ゆう都市伝説やて
思ってたわぁ。
ちゃあんとワケあったんやね」

チェックアウトをするリンネを
見ながら、ロビーの囲炉裏で
キコが呟く。

「ほんまやわ。中国でやってる
立春の願掛けやってんな。」

そう返事をして、
リンネが 受付で渡された
お弁当をチョウコが貰って、
さっきの玉子と一緒に
背負いの山谷袋へ直した。

「チョウコさん、本当に
必死過ぎで 笑えましたね。
何を、願掛けしたんですか」

リンネは山谷袋を背中に背負って
ヘッドライトを点ける。

「決まってるやん。
リュウちゃんに会えますよう」

チョウコもライトを点けて
スニーカーを履いた。

ロビーに受付のマネジャーが
出て来て挨拶をする。
3人はそれに応じながら
出立の「行ってきます!!」を
玄関に響かせる。

まだ外は暗いが、
直に明るくなるからと
マネジャーは言っていた。

白い息を吐きながら
明かりの無い集落へと旅立つのだ

「チョウコさん、
そのリュウちゃんて、誰?」

キコもライトをONにして、
リンネとチョウコに続きながら、
徐に前を歩くチョウコに
思い続けていた疑問を
投げ掛けた。

すっかり歩く順番が定着している

「初恋の恋人!婚約者!
ずっと、帰ってけえへん!」

キコの問い掛けに、
チョウコは叫ぶように答えると、
ガサゴソと朝暗い中に
電話に撮っている写真を見せる。

もとは現像していた写真を
電話で撮ったモノだろう。

リンネとキコが覗きこんだ
電話の画面には
タキシード姿のヤンキー風
新郎と、
ウェディングドレスの
チョウコが笑っている。

「これ、結婚式の前撮りやねん。
ほんまは、この1ヶ月後に
式する予定やってんで。」

そうして、チョウコは
電話を直すと

「やのに、リュウちゃん、
おらんなってもーてん。
海に漁行って雷に打たれた。」

と続けて、

「船は丸焦げの残骸でな。
そやけど、リュウちゃんは
見つかれへんねん。やから、
リュウちゃんに 会いたいねん」

まっすぐキコとリンネに
向き合った。

「やから、協力してーや。」

目の前の暗い中に川が出てくる。
渡し船があった川を渡れば、
そこから再び古道に入る。

チョウコのお願いに、
さすがにリンネもキコも
微妙な表情をその顔を浮かべた。
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