その男『D』につき~初恋は独占欲を拗らせる~

「さっきの話、たとえ話ですからね」
「え?」
「これは就職した時自分で買ったものです」
「…は?」
「祖母はピンピンしてますし、私長女なんで姉はいません」
「……はぁ?!」

今まで1度も見たことないような顔をしている友藤さん。
目を見開いて、本当に驚いたようにあんぐりと口を開けている。

きっとさっき神妙な顔をして何か考えていたのは、この万年筆を見るたび私がモヤモヤすると思って、何か言ってあげなくてはと必死に考えていたんだろう。

話の最初に『たとえば』と言っておいたはずだけど、途中から友藤さんが真剣な顔をしだしたのを見て、なんとなく勘違いしているかなというのは分かっていた。

それでもすぐに訂正しなかったのは、その方が『モヤモヤした気持ち』や『独占欲』に囚われている私の感情を理解してくれると思ったから。

でも、こんな間抜けな顔を晒して驚いてくれるとは…。予想外だった。

『ザマーミロ』と心の中で舌を出しつつ、「Dの男が良い理由、友藤さんにわかるように説明するには『恋愛』じゃなくて『情』に例えたほうがいいと思って」と弁解した。

実際、彼は営業職という仕事柄、『人との繋がり』や『情』というものを大切にしている。

だからこそ、こんな下手な例え話をしたんだけど。


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