その男『D』につき~初恋は独占欲を拗らせる~

駐車場に車を止めて、ちらりと助手席を伺う。
7月に入り、じりじりとした日差しが肌を焼くような暑さなのに、左隣に大人しく座っている彼女は青白い顔をしている。

インテリアのデザインと販売を請け負っている株式会社スパークル。約2ヶ月前に俺が新規で契約を取り付けた企業だ。
そこまで大きな会社じゃないものの、本社があの大企業、水瀬ハウス工業の自社ビルに入っていることも有り、そちらとの繋がりを期待して掛けた営業先だった。

以前は他の病院と契約していて、スパークルの社員が病院まで足を運び健診を受ける形をとっていたが、受診率が悪く総務部のお偉いさんが頭を悩ませていたらしい。秋からはうちで出張健診をすることになった。

今日はその打ち合わせでこうして出向いている。

出張健診は設備の整った医療施設で行うわけではないので、円滑に進めるためには念入りな準備が必要となる。

まずは大きなレントゲン車を社内の敷地内のどこに停めるのか。邪魔にならない場所で、かつ電源を引かなくてはならないので、導線との兼ね合いが重要になる。

そして社内のどの部屋で健診を行うのか。

大きなホールさえあれば、そこをパーテーションで区切って順番に回って行く学校の体育館で行うようなスタイルで話は早い。

しかしそんなものがある企業はほんの一部。
大体は小さな会議室を4つ程借りて、そこに検査を振り分けて順路を作る。

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