その男『D』につき~初恋は独占欲を拗らせる~

1年ぶりに元職場に行くことになった。
急に打ち合わせの代打に指名され、相手先の企業を見て心臓が止まるほど驚いた。

新入社員としてスパークルに入社したのは今から3年前。
営業課に配属された賢治と、有名デザイナーの沢田洋司を父に持つ美香はデザイン部。そして総務部の私。たった3人きりの同期。

あっという間に仲良くなり、よく3人で飲みに行ったりもした。

賢治と付き合い出したのは入社から2年近く経つ頃。長身で目鼻立ちの整ったイケメンな彼からずっと好きだったと告白され、まんざらでもなかった私はその場で頷いた。

過去何度も嫉妬しすぎてダメになっている私は、アドバイスを貰おうと恋愛経験豊富だと自ら語っていた美香に相談がてら報告することにした。

すると美香から告げられたのは、たった2ヶ月前まで賢治と付き合っていたという驚きの事実だった。

ずっと一緒にいたのに2人が付き合っていたのも気付かなかったし、なにより賢治は『ずっと好きだった』と告白してくれたのではなかったか。

すぐに彼に確認すると濁しながらも肯定の言葉が返ってきた。よりによって職場で一番親しい同期が元カノだなんて、私に耐えられるだろうかという不安がよぎる。

『美香に告白されて付き合ったけど、やっぱり好きになれなかった。俺が好きなのは朱音だけ』

なんとかその言葉を信じて付き合っていたものの、美香から時折聞かされる賢治の話にモヤモヤは募っていった。

< 51 / 110 >

この作品をシェア

pagetop