その男『D』につき~初恋は独占欲を拗らせる~

『その日会ったばかりの女をヤろうとしてる男』なのはあなたも同じじゃないんですかね。
友藤さんの表情が伝染したように私の眉間にも皺が寄ったのがわかった。

どの口がそんなことを言うのかとイライラが募っていく。
そのせいで言わなくて良いことまで叫んでしまった。

「いいんです、わかってて行くので!近くにホテルが有るお店を選んでもらったんです。お持ち帰りされていいよう色々万全ですから!」

言い放った瞬間、いつの間にか目の前に来ていた友藤さんに顎を掴まれた。その瞳に獰猛な光を宿し、私を射竦める。
あっと思った時には既に唇が奪われ、抗議の言葉は全て彼の中に飲み込まれていく。

「ん…、んんっ!」

以前ランチの帰りにされた戯れのキスじゃない。
勝手に口を割り、舌を差し込み、傍若無人に暴れまわる。

抵抗しようと振り上げた右手は捕らえられ、そのまま私の後ろの壁に押さえつけられた。
左手も同様に壁に縫い付けられ、蹴り上げようとした足は彼の膝で押し潰される。

その間も唇が離れることはなく口内を蹂躙され、飲みきれない唾液が口の端から溢れる。


「朱音…」
「んん…、ん」

息継ぎすら許さないという激しいキスの合間に名前を呼ばれる。いつものヘラヘラした『朱音ちゃん』という呼び方じゃない。その名を愛おしむように耳に直接語られる私の名前が、とても尊いもののように聞こえる。

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