先生がいてくれるなら③【完】
「あのさぁ」
「はい」
「やっぱ、行き先、俺んちに変更していい?」
「……へ?」
「今から家に帰っても、お前、ひとりなんだろ? また後で送って行くから、ちょっとだけ俺んち寄って行って」
立花の答えを聞くまでもなく、車を自分の家へと走らせる。
もう目前になっていたはずの立花の家がどんどん遠ざかり、立花は助手席で目を丸くしていた。
泊まりの許可を取っていないから一晩を一緒に過ごすことは出来ないけど、もう少しだけ二人きりの時間を過ごしたい。
助手席の立花を運転しながらチラリと見ると、今度は呆れたように笑っている。
「先生、ごめんなさい、車、一度どこかに止めてもらってもいいですか?」
「やだ」
「じゃあせめて、もう一度私の家の方に向かって下さい」
「それもやだ」
「……お泊まりの道具、持って来たいんですけど」
思いがけない言葉に、危うく赤信号を無視するところだった。
「思い直してくれました?」
「でも、外泊許可、」
「貰ってます」
「は、あ?」
「だから、お泊まりの道具、取りに帰らせて下さい。それに制服のままじゃまずいし」
確かに、制服のままの立花を自宅に持ち帰るのは、あまりにもまずかった。
卒業したとは言っても、今月いっぱいはまだ高校生扱いだ。
はぁ……、俺は立花のことになると周りが全く見えなくなるらしい。
危ない思考回路を自覚して、しっかりしろ、と自分を戒める。
隣でクスクスと笑い始めた年下の恋人をジロリと一睨みして、行き先を再び立花の家へと変更した────。