君に伝えたかったこと
第一章

日常

冷たい風が吹き抜ける12月。

あと数日もすれば今年も終わり新しい年がやってくる。

年末になると、お気に入りのお店にケーキを受け取りに行く。
それがここ数年、美貴恵のお決まりのパターンだった。

お目当てのケーキを手に入れた美貴恵は、少し冷えてしまった体を温めようとコーヒーショップに入った。

そしてカラフルなラッピングで包まれたケーキを片手で持ちながら、空いている席を探す。

しかし、タイミングが悪かった。

ただでさえ人が出かける年末に加え、夕方は買出しが終わった客で溢れかえる時間帯。

店内に自分が座る席は見当たらなかった。

トレーとケーキに両手を占領されてしまったまま、しばらくフロアの隅で立っていたが、いっこうに席が空く気配はない。

(失敗したなぁ…)

そうつぶやいたとき、ちょうどガラス越しのカウンター席に座っていた男性が立ち上がったのが見えた。

美貴恵は椅子にかけられた荷物に当たらないように、器用に狭い通路をすり抜けていく。

ようやく荷物をカウンターの上に置くことができた美貴恵は大きく深呼吸をした。

(ふぅ~やっと席確保。コーヒーが冷めちゃうよ)

ガラスの向こう側には絶え間なく流れる人の群れ。

木枯らしにコートの襟を立てて急ぐ男性、子供を真ん中にして手をつなぐ家族連れ、しっかりと寄り添って歩くカップル。

そんな光景をしばらく眺めていた。
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