君に伝えたかったこと
第五章

温度

通勤ラッシュが一息ついた駅前のロータリーに車を停めた。

運転席から眺める景色は当たり前のような都会の景色。
駅ビルから延々と流れ出してくる人の列は、オフィスビルへ吸い込まれていく。

目を細めながらその様子を見ている芳樹のそばを、まるで水が流れるように人が通り過ぎる。

(まだちょっと早いか)

ビルの上に光るデジタル時計は待ち合わせ時間の15分前を知らせていた。

この時期にしては驚くほど暖かな日差しが降り注ぐ平日の昼間。
ドアを開け車の外に出ると、心地よい冬の空気を目いっぱい吸い込んだ。

しばらくして携帯電話が鳴る。

「美貴恵さん、おはよう」

電話の向こうから

「おはよう」

と美貴恵が明るい声で答えてくれる。

「澤田さんがいる場所にもうすぐ着くよ」

芳樹は視線を上げ、あたりをキョロキョロ見渡した。
すると電話をしながら歩いていてくる美貴恵の姿が視界に映る。
歩いてくる方向へ早足で向かうのだった。
待つのではなく迎えに行く芳樹。

「車があっちなんです。近くには停められなくて・・・」

申し訳なさそうに言うと美貴恵は

「えー 歩くのー。疲れちゃう。」

と少し口を尖らせて言う。もちろんそれが冗談なのはわかっていた。

「すみません、気が利かなくて。少しだけガマンして歩いてくださいね、1分ほど」

「しょうがないなー。今回だけだよ」

こんな会話をしながら歩く二人の間には、最初のころにあった距離感は消えていた。

(どうしてこんなに居心地がいいんだろう?)

美貴恵は気持ちの中でその答えがずっと気になっていた。

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