君に伝えたかったこと

迷路の入り口

芳樹の写真を雑誌で見かけてからというもの、美貴恵の気持ちはまったく落ち着きを失っていた。
考えないようにしようと思えば思うほど、心のどこかで考えてしまう。
ごまかしながらでも、ようやく芳樹のいない日常に慣れようとしていた矢先の出来事。


電話もラインも来ることはないという現実を頭では理解していても、なぜか期待してしまう。
それと同時にそんな自分にほとほと意嫌が気がさしていた。

(なにやってんだろう? 私が自分で決めたことなのに・・・。私から遠ざけたんだから連絡なんかあるわけないじゃん)

自分に言い聞かせるようにポツリとつぶやいてみる。
しかし、あとに残るのは言いようもない寂しさだけだった。

連絡先を消してしまうことが自分にできた最良の方法だったはず。
自分勝手な感情に流されてしまいそうな気持ちを抑え、必死で伝えた答え。


どんなことよりも苦しくて辛い選択だったから、決して忘れないという気持ちを込めて伝えた想い。

しかし、日から消えた芳樹の存在とは裏腹に、胸の中にはっきりと居続ける感情。

(声が聞きたい・・・)
(逢って抱きしめてほしい・・・ )

そんなことは二度とないことも嫌というほどわかっていた。

そんなときに偶然見つけてしまった、雑誌の中の一枚の写真。
一緒にいたときと同じ笑顔を見せる芳樹。

「美貴恵は絶対に幸せになれる」

もう一度そう言ってもらえるなら、きっと同じ笑顔で語りかけてくれる。
それは美貴恵の勝手な想像や希望ではなく、絶対にそうしてくれるはずという自信だった。
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