君に伝えたかったこと

バカみたい!

誰もが忙しそうに早足で通り過ぎる午後のオフィス街。
美貴恵が立っていたのは、あるスタジオの前だった。

(ここにくれば逢えるかもしれない)

なんの保証もなかったが、自分の想いをもう一度確かめるためにはこの方法しか思いつかなかったのだ。

逢えるかもしれない。
逢えないに決まっている。

どちらの結果が出でも、美貴恵にとってはこうして行動することが大切なことだった。

スマホの地図を見ながらようやくスタジオの前にたどりついてから30分。
ずっとスタジオの入り口を見つめながら立っていた。

しかし時折スタジオのドアが開き、関係者らしい人が出入りしているものの、そこに芳樹が現れることはなかった。

(何してるんだろう、私。こんなところにいても、都合よく芳樹が出てくる偶然なんてあるわけないじゃない。
そもそも芳樹がこのスタジオでどんな仕事しているのか、どれくらいの割合で来ているかもわからないのに・・・。普通に考えれば逢えるワケない。)

とりあえず自分ができることを実行してはみたものの、自分の無計画さに半ばあきれていた。
しかし、想いを確かめるために何かをしないと、自分自身が納得できないこともわかっていた。
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