涙、滴り落ちるまで

記憶の欠如




近くにある小さな公園の隅に生えている大きな木の下で、男の子の話を聞くことにした。

「ボク、祐希(ゆうき)!中川 祐希って言うんだ。お兄ちゃん、助けてくれてありがとう!」

祐希さんは、そう言ってにこりと笑う。綾は「祐希くんだね。私は、若松 綾花って言うんだ」と自己紹介をした。

「……僕は、星川 瑠依。死神なんだ」

僕が微笑むと、祐希さんは「死神?」と首を傾げる。僕は「うん」と頷くと、死神の説明を簡単にした。

「……君は何か未練があるから、地上を彷徨ってるんだけど……」

僕の言葉に、祐希さんは何かを考え込む。

「……分からない……何も覚えてないんだ」

しばらく考え込んでいた祐希さんは、そう言って困った顔をした。

「……そっか……どうしよう……」

亡くなった際、記憶が無くなる霊が存在するという話は聞いたことあるけど……出会ったのは、初めてだ。

「……祐希くん。とりあえず、歩いてみよ?何か思い出すかもしれないし……」

そう言って、綾は祐希さんを見つめる。祐希さんは、元気よく頷いた。

「……そうだね……綾、近くから微かにだけど悪霊の気配がする……」

微かに感じる悪霊の気配。辺りを見渡しても悪霊の姿なんてないし、遠くにいるわけでもなさそうだ。
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