君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
 悟くんには「いつ目覚めるかわからないから、今日はもう帰ってもいいよ」って言われたけれど、もちろん帰れるわけなんてないので、私は彼と一緒に集中治療室の前で待ち続けた。

 すると病院に着いて一時間ほど経った時、樹くんのご両親が集中治療室の前にやってきた。

 病室前の長椅子に座っていた私と悟くんは立ち上がって出迎える。


「悟くんと栞ちゃん。樹を病院に連れてきてくれてありがとうね」


 樹くんのお母さんは少し疲れたような顔をしながらも、微笑んで言った。

 先生から、すでに今の樹くんの様子は聞いているみたいだけれど、とても落ち着いている様子だった。

 ご両親は、何年も前から愛息子の病気と向き合っているはず。

 きっともう、他人の前で取り乱すような状況ではないのだろう。

 それにいとこである悟くんの前だから、悲しさや病気に対する怒りなんかを、大人が見せないようにとセーブしているのかもしれないなと思った。

 なんだかそれがかえって私には悲しかった。


「栞ちゃんっていうの? 俺は初めましてだね」


 樹くんのお父さんが、私の方を見ながら言った。

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