私があなたを殺してあげる
 私は下から彼の顔を覗き込むと、口は開かないが、何か言いたげな表情をしている。


 励まそうと思ってるの?


「さっき店に入った時、あなたを見て自分がすごくみすぼらしく思えた。汚くて、浅ましくて、情けなくて・・・ あまりにもあなたがキラキラしていたから・・・」

「俺が・・・? そんな・・・ んんっ!?」

 私は浅尾くんを壁に押し付けると、強引に唇を奪った。


「ちょ、ちょっと!」

 浅尾くんはびっくりして、私を自分から引き剥がす。


「お願い、私を抱いてくれない?」

「ええっ!?」

「あなたみたいな人に抱かれたら、この気持ちも少しは楽になると思うの」

「なんですかそれ?」

「私、あの人と寝てから、ずっと虚しさと背徳感が消えないの・・・ 不安で壊れてしまいそうなの。だからこんな私を洗浄してくれない? 浅尾くんの純粋さで彼とのセックスを上書きしてくれない?」

 私は藁にも縋る思いで、浅尾くんに懇願した。


「・・・すいません、それはできません」

 しかし浅尾くんはそんな私を受け入れなかった。


「だよね・・・ ごめんなさい・・・」

「すいません・・・」

 浅尾くんはそう言って部屋から出て行った。


 ガチャっと扉が閉まる音に、すべてが終わった気がした。


「そうだよね・・・ さっき会ったばかりの女に、こんな汚れた女に・・・ そうだよね・・・ ううっ・・・ ううっ・・・ わぁぁぁぁん」

 私は浅尾くんが帰って行った玄関で、夜が明け、陽が昇り始めるまで泣き続けた。



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