私があなたを殺してあげる
「あの二人、もう十年以上も不倫してるんだよ?」

「十年?」

「うん」

「というか不倫なんですか?」

「そう。加寿実さんも浅尾さんも既婚者」

「よくばれませんね?」

「加寿実さんはだいぶ前から別居中で、今は離婚調停中。浅尾さんは家族にはばれてるみたいだけど、離婚はしてないみたい」

「ばれてる? それで奥さんや家族の方は何も言わないんですか?」

「う~ん、浅尾さんのところはちょっと特殊なのよ」

「特殊?」

「うん、浅尾さんのところは自営業で酒屋さんをやってるみたいなんだけどね? 一緒にやっている息子がぐうたらでなかなか独り立ちしないらしいの、仕事もなかなか真面目にやらないみたいでね。そしてそんな息子が可愛いのか母親も甘やかすからますますダメになって行って、浅尾さんが息子を叱ると奥さんが怒るらしいの。それでいつからか家族に亀裂が入って、家庭の中は完全に冷え切ってるみたい。だから浅尾さんのことは放ったらかしで、それで浅尾さんも家に居づらくて、加寿実さんとこうなったらしいの。けど本当は家のこと関係なく、二人は昔から良い感じだったらしいけどね。家のことを理由にしてるんじゃない? 私も詳しくは知らないけど」

「そうなんですか・・・」

「まぁどのみち、そんな家の中にいたら不倫もしたくなるよねぇ・・・」

「そうですね・・・」

 不倫はいけないこと。けどそんな理由があるなら仕方ないと思える。だって人は苦しいことだけを抱えては生きれない、時には楽しいことだってないと。


 なんか、まるで自分の事をフォローしているようだ。


 それから浅尾さんは二時間くらい店で過ごし、加寿実さんと一緒に店を出て行った。これも上得意の特権なのだろうか。


 けど浅尾さんは私が話し掛けても優しく答えてくれた。大人の余裕ってやつだろうか。浅尾さんは素晴らしい紳士的な男性だった。


 こんないい人を大事にしない家族って、罰が当たればいいのに。


 家族からもやさしくされない。私はどこかで浅尾さんに共感していたのかもしれない。


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