私があなたを殺してあげる
「河名さん!」

「杏子ちゃん? 帰ったんとちゃうかったん?」

 商品の棚に陳列している河名さんが、どうしたの? というような表情で私を見た。


「智明って実家は酒屋さんなの?」

 私は河名さんの問いかけを遮り、智明のことを聞いた。


「えっ? そうやけど・・・」

「そうなん?」

「知らんかったん? 昼間は実家の酒屋で、夜はここで働いてるんやで」

「実家が酒屋? 昼は働いてる? 智明って学生ちゃうの?」

「ちゃうちゃう、社会人や。歳も杏子ちゃんより一つ上やで」

「私より上?」

 智明は大学生で年齢は二十歳過ぎくらい、私は勝手にそう思っていた。それが社会人で、私より年上なんて・・・ 見た目が若く見えるから全然気付かなかった。

 智明の実家が酒屋・・・ 
ということは、智明は浅尾さんの働かない息子っていうこと?


「智明ってお兄さんいる?」

「いや、確かお姉さんだけやったと思うよ」

 やっぱり、智明が働かない息子だ。

「智明ってなんで、夜ここでバイトしてるの?」

「う~ん、あまり言わない方がいいんやけど・・・ まぁ杏子ちゃんならいいか。浅尾くんは実家がかなりの借金を抱えてるんよ、だから夜もバイトしてるねん。酒屋も経営が苦しくて、もう十年近く給料ももらってないらしいで。そのことを俺も友人に聞いて、彼をここで働かせることにしたんや」

 実家が借金を抱えてる? 昼は働いてるけど給料は無し? 話と全然違うじゃない。

 借金を抱えてるって、確か浅尾さんは外車に乗ってたよね? それに夜遊びもしてる。とても借金があるとは思えない。


 その後、河名さんにいろいろ聞くと、夜中働いてるのは十年くらい前からで、ドラッグストアの方が時給が良いからといって、こっちで働くことになったと話してくれた。


 智明、そんな若い時から昼も夜も働いてるん?
 智明にも、そんな人生があったんやねぇ・・・

 私はなんだか胸がぎゅっと締め付けられるような気がした。


 私はその夜、浅尾さんのことを加寿実さんに直接聞いてみた。そしたら借金があることは確かなようで、それを返済するために浅尾さんは一生懸命働いているのだと。しかしそのことに非協力的なのが息子で、まったく働かないらしく、出来ることしかしないらしい。そして借金があることで嫁にも娘にも家では冷たくされているということだった。


 もし働かない息子が智明を指しているのなら、それは大きな間違いだ。智明は働き過ぎるくらい働いている。


 どこかで話が食い違っている。けど息子が働かないといったのは浅尾さん自身、人の噂でも何でもない。私は智明が働かない息子だとは思えない、どちらかというと浅尾さんの方が働かない、遊びまわっているダメな父親だ。


 智明のことを言う前に、まずは外車を売って、遊ぶことを止めるのが先じゃないのか?

 私は浅尾さんの感覚に違和感を覚えた。


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