私があなたを殺してあげる
「はい。ああ、うん、友達の家・・・」

 智明は電話の相手に友達の家にいると答える。


 友達の家かぁ・・・ まぁ仕方ないよね。


 私は智明の答えに少し胸がきゅっと痛む。


「うん、わかった聞いてみるから。うん・・・ はい」

 智明は電話を切る。表情は一気に暗くなった。

これは時折、智明が一人でいる時に見せる表情。一点を見つめ、感情を無くしてしまったような、そんな色のない目。


「智明、どうしたの? 誰から?」

「えっ? ああ、親父から」

 お父さん? 浅尾さんか。だから友達の家って言ったのか。


「それで、なんて?」

「えっ? いや、なんでも」

「うそ。今、すごい顔してるよ?」

「えっ? ほんま?」

「うん」

「いや、ほんまに何もないから」

 智明はそう言うと、ニコッといつもの笑顔を見せた。

 私はその表情の変わり方に驚いた。


 さっきあれだけ落ち込んでいた顔をしてたのに、もうこんな笑顔見せて、何、この変化は。まさか、笑顔を作ってる?

 なんだか怖くなった。智明はこんな一瞬で表情を変えられるんだと。だったらいつもはどうなんだろう? いつも見せている笑顔は作りものなんだろうか? あの笑顔は嘘なんだろうかと。


 確かにいつも店の裏で落ち込んでいても、店内に戻れば笑顔だ。私と話すときも。


 まさか智明、いつも無理して笑ってるの?


「杏子、ごめん。ちょっと用事思い出したから帰るわ」

「えっ? ちょっと!」

 智明は突然帰ると、急いで服を着始めた。


「せめて朝ご飯だけでも食べていかない?」

「ごめん、どうしても行かなあかんところができて。ほんまごめんな」

 智明はそう謝ると、急いで家を出ていった。


「智明・・・」

 智明は笑顔で部屋を出ていった。その姿を見て、何かとても嫌なものを感じた。

 智明の身に何かがある、そんな不安を・・・




< 41 / 56 >

この作品をシェア

pagetop