私があなたを殺してあげる
「なんで智明が一人で背負ってるんよ?」

「いや、親父も背負ってる」

「浅尾さんが背負ってる? 夜スナックに来て、女と不倫してる男が? 全然働かん男が? そんな男が何を背負ってるって言えるん?」

「杏子、親父のこと知ってるんか?」

「ごめん、智明。私、智明のお父さんのこと知ってた。私の店の常連さんで、週に二回必ず来てる」

「そうやったんか・・・」

「驚かへんの?」

「不倫してるんは知ってたしな。まさか杏子の店とは思わんかったけど」

 そうだ、智明や家族の人は、浅尾さんが不倫をしていること知っているんだった。


「なんで? なんで智明は怒らへんの? そんな好き勝手やって、智明に何もかも押し付けてる父親を、なんで許してるん?」

「別に許してるわけじゃないけど・・・」

 智明はこんな状況になっても父親である浅尾さんを責めない、見捨てない。普通なら考えられない。私ならきっと家を出ていく。


 智明のことについて、性格や過去についても、以前あゆむさんに聞いた。智明は昔から厳しく育てられ、父親には絶対に歯向かえないように、体に心に教え込まれたのだと。私も父親が厳しく、歯向かえないように育ったという点では少し似ている。

 ただ、私は父に見捨てられた。しかし智明は違う、そばに置かれ、いいように使われている、まるで奴隷やロボットかのように。解放されただけ私の方がマシかもしれない。



「ねぇ、智明?」

「ごめん、仕事に戻らないと」

 智明は逃げるように仕事へと戻っていった。


「智明・・・」

 バイトが終わってから智明と話をしようと思ったが、今、智明に必要なのは休養。それに私が問い詰めて追い込んでしまってはいけないと思い、私はぐっと堪えて家に帰った。


 もしかしたらと思い、智明がバイトを終える朝まで起きて待っていたが、私のスマホが鳴ることはなかった。




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