天才脳外科医は新妻に激しい独占欲を放ちたい
「季帆。キスをするときは鼻で息をしろと教えただろ」
「だって!」


 いつ誰に見られるかもしれないこの場所で、キスなんてありえないでしょ?


「真っ赤になってかわいいな。先行くから、そのドキドキ抑えてから戻ってこい」
「もう!」


 余裕しゃくしゃくな陽貴さんは、私の頭をポンと叩いてから去っていった。

 収まらないでしょ。

 心臓のあたりに手を置いて深呼吸する。


「あ、頑張ってって言うの忘れた……」


 不意打ちのキスなんてするからよ。

 私はついさっき陽貴さんが手を伸ばした青空を見上げる。


「頑張って」


 今日はたしか脳腫瘍のオペだ。

 難しい場所にあるので長くかかると先生たちが話していた。
 けれども、彼は全力を尽くすはずだ。

 私も脳の手術をすることになったら絶対に彼に執刀してもらいたい。

 陽貴さんは命を預けられる優秀な脳外科医なのだ。


 私は彼のような人に愛される幸せを噛みしめながら、病棟に向かった。
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