双生モラトリアム

(……だるい)

1月の雨は、とても冷たい。
夜遅くに自転車を押して歩くと、傘をさしていてもあちこち濡れてしまう。

中途半端に地方都市のここは、夜遅く開いてるスーパーが少ない。
ホテルの帰りはいつも遠回りになるけれど、2km先のスーパーに寄ってから帰宅する。


築30年以上は経つアパートの一階。クローバーのストラップがついた鍵でドアを開けると、居間にいたお母さんが驚いたように目を開いた。

「お帰り、唯(ゆい)。びしょ濡れじゃないの。お風呂沸かそうか?」
「うん、ありがとう」

木の板の床を濡らさないように玄関マットの上で体を拭く。お母さんは足を引きずりながら、風呂場へと向かった。

(……やっぱり、雨の日だから痛むんだ。事故の時の傷が……)

お母さんがあんな体になって、10年近く経つ。
雨の日。対向車の大型トラックと衝突し、お父さんが亡くなりお母さんが大怪我を負った事故。
その日を境に、私たちの日常と世界が少しずつ狂っていったように思う。

生き残ったお母さんが負い目を感じているのも知ってる。

お母さんの収入のみでは人並みの生活さえできなかったし、経済的な事情で長女である私が進学を諦めて高卒で就職し、妹の舞が大学へ進学したことも。





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