双生モラトリアム

「……なぜ、ですか?」
「ん?」
「なぜ、ここまで……」

立花先生はなにかを察したのかもしれないけど、なにも訊かずただ親切にしてくれ、耐えきるための手助けをしてくれる。

理由がわからなくて、でも訊くのは厚かましいような気がして途中で口ごもると。立花先生はうん、と小さく頷く。

「まあ、僕の勝手かな。ただ単に雪見酒をしたかったから……だね」

そう笑った彼は、熱燗らしい徳利を掲げて見せる。ほんとに雪見酒してるんだ……とちょっと呆れたけど。それにかこつけて私を助けてくれているんだから、文句は言えない。

「……ありがとうございます……」

せっかくの親切、卑屈な心が許否しようとしたけど。もう体が辛くて仕方ないから、素直に受けることにした。

「うん、別にいいですよ。今度恩を返してもらいますから」

清々しいまでの見返り期待宣言に、いっそのこと潔さを感じて口元が綻んだ。

「ふふっ……私でできることならなんでも」

私が軽く応じると、立花先生は意地悪そうな声を出した。

「じゃ、期待しちゃいますよ」
「え~具体的に何をすればいいんです?怖いんですけど」
「それは今から考えますよ。さ~何をしてもらおうかな?」
「て、手加減お願いします……」

不思議だ。
体が暖まっていく以上に、心がポカポカと温まる気がする。

避難用の衝立越しだけど。隣に知ってる人がいる安心感以上に、立花先生の優しさやあたたかい心がぬくもりをくれる。

まわりには雪より冷たい人しかいないから、なおさらに。
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