双生モラトリアム

お義母さんはハンカチを握りしめ、フフッと自虐的な笑みを浮かべた。

「咲も……本当に馬鹿よ……私に遠慮して……妊娠を隠しひたすら耐えて……もちろん、裏切りは憎かったし許せなかった。でも、もっと許せなかったのは……私に何も言ってくれなかったこと!生まれた時からすべて分けあってきたのに。いつしか咲は、私に何も言ってくれなくなった……私はすべて伝えてたのに……咲はひとりで抱え込んで……だから、相談に乗った賢さんは……咲を愛してしまって……それだから、なおのこと憎かった。許せなかった!」

ポロポロと涙を流すお義母さんは、ずっとずっと抱え込んできたんだろう。心底悔しげな顔をして、ギリリと歯を食い縛った。

「だから……唯、あなたがずっと許せなかった……ごめんなさい……ずっと冷たい母親で……咲の罪なんて……あなたには関係ないのに……何度も、何度も伸ばされた手を振り払ってしまったわ……」

お義母さんはさめざめと泣いた。

「賢さんと事故に遭ったあの日……私が彼と車内でケンカをしてしまったせいよ……苛ついた彼はスピードを出してスリップし……対向車に。賢さんは……私が殺したようなものよ。あなたから唯一の家族の父親を奪ってしまった……その罪悪感から逃げようと……母親らしいことをしようとしたけど……ダメだったわよね……もう、償えないくらいあなたは私に醒めた目を向けるようになってたから……」

お義母さんの告白から、そうかと納得できた。
中学からお義母さんが急に優しくなった理由。
喪服のような地味な服しか着なくなった理由も。きっと懺悔の気持ちから。けど、その頃には私はもう家族に期待してなかった。お父さんを失って……その喪失感から、一定の距離を取りながらも。やっぱり離れがたくて家族のふりをし続けたんだ。

本当に独りになるのが、怖かったから。

私がそう告げると、お義母さんはごめんなさい……と涙を流した。

「もっと、もっと……私たちは言葉をかわすべきだったのね……もう、遅いけど」

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