御曹司は初心なお見合い妻への欲情を抑えきれない


聞かれても、その答えを口にするだけに留めている。
相手がどんな人かわかって、この人なら話しても大丈夫だと安心できれば自然とガードも緩くなるのだけれど、そういう相手はなかなかいないし、学生生活の中では見つけられなかった。

だから、今はとても幸せだと思う。
君島先輩も渡さんも、私の話を嫌な顔をしないで聞いてくれるから。

「まぁ、終わったことをいちいち掘り返されて同情されるのはたしかに面倒くさい部分はあるけどね。あまり知られたくない部分もあるだろうし、誰彼構わず話せとは思わないよ。でも、東堂さんは春野ちゃんの生い立ちとか全部知って受け入れてくれてるわけだし、なんでも話して頼っていいと思うよ」

励ますように言う先輩に、目を伏せる。

「そう……ですよね」

なんでも相談して、暗に助けて欲しいとお願いするのはなんだか違う気がして、曖昧な返事になる。

私がこんなにも東堂さんに相談するのをためらうのは……たぶん、私の性格の問題だけじゃない。
報告した方がいいのはわかっている。けれど……と私を止めるのは、東堂さんに煩わしい顔をしてほしくないという思いだった。

私とのことを、少しでも面倒に思われたくない。

こんなことを考えるのは人生で初めてで、こんなことで、渡さんが言っていた『臆病になる』の真意を知るのだった。

今、スタンプカードに押印したら、きっと十個全部の欄が一気に埋まると思う。

恋の定義がわからずにスタンプカードなんて言っていたのが、ものすごく昔のことに思え苦笑いがもれた。



< 107 / 184 >

この作品をシェア

pagetop