御曹司は初心なお見合い妻への欲情を抑えきれない
母がとにかく元気に仕事に行く姿をずっと見てきたので、自然と私も!という思いが掻き立てられ、高校生の頃から就職するまで毎日が学校とバイトで終わっていた。

そしてそこに少しの不満もなかったので、私自身もともと恋愛に対しての興味が薄かったのだと思う。

周りから遅れているとわかりながらも、だからといって誰かと恋愛したいとも思わなかったし、深く考えることもなく、私にとっては〝まぁいっか〟ですませられる程度の問題だった。

「でも、最近は仕事もなんとか回せるようになって、少しだけ余裕ができたから……それに、なにより幸せそうな母を見て、誰かを好きになれたらいいなって思うようになりました」

漠然としていると言われればその通りではあるけれど、これまで興味すら持てなかった私にとっては大きな変化だった。
なにより自然とそんな気持ちになれたので、機が熟すというのが正しい表現かもしれない。

「あれだけ男性に対して不信感しか持てずにずっとひとりで踏ん張ってきた母が、葛藤して信じる道を選んだんです。私もこれから誰かと……と思ってます」

言い切ってから、なかなか恥ずかしいカミングアウトだったかもしれないと思い、照れ隠しにワイングラスに手を伸ばす。

ひとりでだいぶ長い演説してしまった……と反省しながらワインを飲んでいると、東堂さんも同じようにグラスを持つ。

そして、それをひと口飲んだところで私に視線を向けた。

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