御曹司は初心なお見合い妻への欲情を抑えきれない


たとえば高校の授業中、完全に居眠りをしていた生徒相手に『俺が今、なんの話をしていたか、もちろん聞いてたよな? だったら答えられるはずだろ? どうしてわからないんだろうなぁ? 先生に教えてくれないか?』とネチネチ聞き続ける先生に、『先生、後藤くんは最初からずっと寝てましたよ。だからもちろん先生の話は聞いてなかったです。それが答えです。先生は見ていなかったんですか?』と発言したことがあった。

私はどうも含まれる悪意に鈍感なようで、そこは母に似たようだった。
だから、この時も先生がわざと後藤くんをいじめているとは気付かなかった。

私の言葉に先生はバツが悪そうな顔をして、後藤くん以外の生徒はクスクスと笑っていた覚えがある。

とぼけているつもりはなく純粋な疑問を口にしただけだったけれど、そのときの周りの雰囲気から、あまりこういうことは言わない方がいいのだと悟った。
なんでも一度頭でしっかり考えてから発言した方がいい。

なのに、今はつい気が緩んで素が出てしまい……気分を害してしまっただろうか、と恐る恐る視線を向けると、東堂さんはひとつ息をついたあと、口を開いた。

「たとえば、の話になるが。この車はほぼ一目惚れだった。見た瞬間、〝いいなこれ〟って気に入って即決したから、ひなたの言うスタンプで言えば十個一気に押されたことになるな」

口調から怒っていないのがわかり、ホッとする。


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