能力を失った聖女は用済みですか?
「ロラン国のラシッド王子、到着致しました!」
重々しい扉が開き、脇に避けたシスルの影から2人の人物が見えた。
真っ白い衣装の背の高い男と、剣を携えた隊長格の男。
いつも白っぽい服を着ていたので、私はそれがラシッドだとすぐに気付いた。
しかし、彼の雰囲気は以前とはまるで違っていたのである。
「ようこそ。ロランの王子、ラシッド殿」
カイエンが良く通る声で言うと、びくっと肩を震わせたラシッドが青い顔でこちらに近づいて来た。
これは、あのラシッドなのだろうか……それが最初に私が感じたことである。
彼の自慢の金髪はボサボサ、肌も青く精彩を欠いている。
自信満々の態度は、今では何かに怯えたように鳴りを潜めていた。
「お、お初にお目にかかるシャンバラ王、カイエン・ミスリル・シーザード。ロラン第一王子、ラシッド・アルウィン・ロラン……である」
ラシッドはカイエンの威厳に負けじと声を張ったが、心許ない様子は隠せない。
何かに助けを求めているようだ……と、思った途端、いきなりこちらに視線が向いた。
「ああ、ルナ、ルナッ!」
「え!?ええっ?」
ラシッドはカッと目を見開くと、私の元に駆け出して来ようとした。
それを見て、シスルとイズールが私とカイエンの前に詰め、ラシッドの進行を遮った。
「何のつもりだ?シャンバラの王妃を名で呼び、近付こうとするなど無礼極まりないぞ」
カイエンは静かに言った。
が、声は刺々しく重く、怒りを堪えているのが丸わかりだ。
立ち止まったラシッドは、不本意そうな表情をして呟いた。
「……聖女はロランが召喚した、ロランの物。ロランの発展と繁栄のためにだけあるものだ……」
「ルナは物ではない。シャンバラ王カイエンの妃である。しかも、ロランは力を失くしたルナを追い出したそうじゃないか!それで返せなどと良く言えたものだ。私なら恥ずかしくて言えないな」
せせら笑うカイエンの後から、シャンバラ兵の失笑が聞こえる。
これは、プライドの高いラシッドには堪えるだろうな。
だいたい、苦労も知らず、ぬくぬくと王宮で暮らしていたラシッドが、幼い頃から権謀術数に巻き込まれてきたカイエンに敵うはずもない。
重々しい扉が開き、脇に避けたシスルの影から2人の人物が見えた。
真っ白い衣装の背の高い男と、剣を携えた隊長格の男。
いつも白っぽい服を着ていたので、私はそれがラシッドだとすぐに気付いた。
しかし、彼の雰囲気は以前とはまるで違っていたのである。
「ようこそ。ロランの王子、ラシッド殿」
カイエンが良く通る声で言うと、びくっと肩を震わせたラシッドが青い顔でこちらに近づいて来た。
これは、あのラシッドなのだろうか……それが最初に私が感じたことである。
彼の自慢の金髪はボサボサ、肌も青く精彩を欠いている。
自信満々の態度は、今では何かに怯えたように鳴りを潜めていた。
「お、お初にお目にかかるシャンバラ王、カイエン・ミスリル・シーザード。ロラン第一王子、ラシッド・アルウィン・ロラン……である」
ラシッドはカイエンの威厳に負けじと声を張ったが、心許ない様子は隠せない。
何かに助けを求めているようだ……と、思った途端、いきなりこちらに視線が向いた。
「ああ、ルナ、ルナッ!」
「え!?ええっ?」
ラシッドはカッと目を見開くと、私の元に駆け出して来ようとした。
それを見て、シスルとイズールが私とカイエンの前に詰め、ラシッドの進行を遮った。
「何のつもりだ?シャンバラの王妃を名で呼び、近付こうとするなど無礼極まりないぞ」
カイエンは静かに言った。
が、声は刺々しく重く、怒りを堪えているのが丸わかりだ。
立ち止まったラシッドは、不本意そうな表情をして呟いた。
「……聖女はロランが召喚した、ロランの物。ロランの発展と繁栄のためにだけあるものだ……」
「ルナは物ではない。シャンバラ王カイエンの妃である。しかも、ロランは力を失くしたルナを追い出したそうじゃないか!それで返せなどと良く言えたものだ。私なら恥ずかしくて言えないな」
せせら笑うカイエンの後から、シャンバラ兵の失笑が聞こえる。
これは、プライドの高いラシッドには堪えるだろうな。
だいたい、苦労も知らず、ぬくぬくと王宮で暮らしていたラシッドが、幼い頃から権謀術数に巻き込まれてきたカイエンに敵うはずもない。