アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ(修正中)
「屋敷で食べてもいいし、どこかで食べて帰ってもいい。夕食が不要なくらい腹がいっぱいなら食べなくてもいい。好きなのを選べ」
「オルキデア様はどうしますか?」
「君に合わせるから、気にしなくていい。夜半に腹が減ったら、適当に屋敷の食料をつまみ食いするさ」
「つまみ食いって……。やっている姿が、全く想像出来ないです」
オルキデアがつまみ食いする姿を想像したのか、フフフと笑うアリーシャに、自然と笑みが浮かんでくる。
(こんな穏やかな時間も、たまにはいいものだな)
アリーシャと出会うまでは、休暇中も戦場や仕事のことばかり考えていた。時々、両親のことを思い出しては胸が辛くなり、また仕事のことを考えるようにした。
けれども、今は全てを忘れて、アリーシャと過ごすこの時間を心から楽しめそうだった。
「俺だって、食べ盛りの頃は、よくつまみ食いをしていたさ。それより、早く食べないとアイスが溶けるぞ」
「そ、そうですね……! 早く食べないと」
既にパフェグラスに残っていたアイスは溶け始めて、グラスの底に沈んでいた。
アイスと共にパフェの上部にあったフルーツはほとんど食べていたようで、残っているのはグラスの底に沈むコーンフレークやコーヒーゼリーであった。
ただ底の深いパフェグラスだからか、溶けたアイスでスプーンが滑ってしまうのか、なかなか掬えず、アリーシャは苦戦しているようだった。
そんなアリーシャを微笑ましく思いながら、オルキデアは残っていたコーヒーに口をつけたのだった。
「夕食ですが、もし、オススメのお店があれば連れて行って下さい。そこに行ってみたいです」
「オススメの店って、君が期待するようなお店には、あまり行かないからな……。
ああ、そうだ。アルフェラッツが家族で出掛けて美味かったと話していた店があったな。屋敷までの帰り道だ。そこに行ってみるか?」
「はい……あの、アルフェラッツさんが、ご家族で出掛けられたんですか?
家庭よりも仕事を大切にしている人だと思っていたので、なんだか意外で……」
「そうか? 家族向けの店を探していたら、見つけたと話していたぞ。奥方と子供を連れて行ったとか」
何気なく付け足した言葉に、ティーカップに伸ばしていたアリーシャの手が止まった。
「……アルフェラッツさんって、結婚されていたんですか?」
「それを言ったら、ラカイユも結婚しているぞ。二人共、士官学校の卒業と同時に結婚したからな。
先程、俺たちが指輪を買った店で、二人も結婚指輪を買ったと話していたな」
意外にも、オルキデアの周りには、クシャースラとセシリアを始めとして、アルフェラッツやラカイユなど既婚者が多い。
上官のプロキオンもまた既婚者であり、士官学校時代の同期も大半が結婚していたのだった。
「アルフェラッツの夫婦は、何年か前に戦争孤児となった子供を引き取ってな。
休暇が明ける度に、休暇中は奥方と子供とどこに遊びに行ったかという話を聞かされるんだ」
「戦争孤児ですか……」
「戦争孤児の問題は、シュタルクヘルトだけじゃないんだ。ペルフェクトも抱えている」
戦争が長引けば長引いた分だけ、両国には孤児が溢れる。
両親又は片親が戦死した軍人の子供。
現地の戦争に巻き込まれ、両親を亡くすか、避難途中に両親とはぐれた子供。
または、戦争の貧困から両親を捨てられた子供などだ。
国が主体となって、孤児院や乳児院を作っているが、戦争が続いている以上、効果は焼け石に水であった。
そんな中、軍部の支援として、子供がいない軍人家庭や、収入が多く金銭的に余裕がある軍人家庭への養子縁組を行っていた。
軍人家庭以外でも希望すれば養子縁組が出来るとあり、特に人手が必要な農村部や農家からは好評らしい。
「そういえば、クシャースラとセシリアも引き取るか検討していたな。上官から散々勧められるとか」
「クシャースラ様とセシリアさんなら、きっと良い両親になれると思います」
結婚四年目にして未だ子供がいない親友夫婦は、軍部の格好の獲物だそうだ。
度々、養子縁組を勧められて困っていると、クシャースラが愚痴を溢していた。
ただ、クシャースラが仕事で王都を留守にしがちなので、そこまで執拗に勧められている訳ではないらしい。
引き取るように言われても、せいぜい不在にしがちな夫に代わり、セシリア一人でも面倒が見れる年頃の子供だとも話していた。
「そうだな。アイツらなら、きっといい父母になれるだろう」
「そうですね……」
俺とは違って。という言葉も出かかったが、それは言わずに留めておく。
おそらく、自分と同じことを考えたのであろう。
向かいの席で、悲しげに微笑む仮初めの妻を前にして、とても言えそうになかった。
「オルキデア様はどうしますか?」
「君に合わせるから、気にしなくていい。夜半に腹が減ったら、適当に屋敷の食料をつまみ食いするさ」
「つまみ食いって……。やっている姿が、全く想像出来ないです」
オルキデアがつまみ食いする姿を想像したのか、フフフと笑うアリーシャに、自然と笑みが浮かんでくる。
(こんな穏やかな時間も、たまにはいいものだな)
アリーシャと出会うまでは、休暇中も戦場や仕事のことばかり考えていた。時々、両親のことを思い出しては胸が辛くなり、また仕事のことを考えるようにした。
けれども、今は全てを忘れて、アリーシャと過ごすこの時間を心から楽しめそうだった。
「俺だって、食べ盛りの頃は、よくつまみ食いをしていたさ。それより、早く食べないとアイスが溶けるぞ」
「そ、そうですね……! 早く食べないと」
既にパフェグラスに残っていたアイスは溶け始めて、グラスの底に沈んでいた。
アイスと共にパフェの上部にあったフルーツはほとんど食べていたようで、残っているのはグラスの底に沈むコーンフレークやコーヒーゼリーであった。
ただ底の深いパフェグラスだからか、溶けたアイスでスプーンが滑ってしまうのか、なかなか掬えず、アリーシャは苦戦しているようだった。
そんなアリーシャを微笑ましく思いながら、オルキデアは残っていたコーヒーに口をつけたのだった。
「夕食ですが、もし、オススメのお店があれば連れて行って下さい。そこに行ってみたいです」
「オススメの店って、君が期待するようなお店には、あまり行かないからな……。
ああ、そうだ。アルフェラッツが家族で出掛けて美味かったと話していた店があったな。屋敷までの帰り道だ。そこに行ってみるか?」
「はい……あの、アルフェラッツさんが、ご家族で出掛けられたんですか?
家庭よりも仕事を大切にしている人だと思っていたので、なんだか意外で……」
「そうか? 家族向けの店を探していたら、見つけたと話していたぞ。奥方と子供を連れて行ったとか」
何気なく付け足した言葉に、ティーカップに伸ばしていたアリーシャの手が止まった。
「……アルフェラッツさんって、結婚されていたんですか?」
「それを言ったら、ラカイユも結婚しているぞ。二人共、士官学校の卒業と同時に結婚したからな。
先程、俺たちが指輪を買った店で、二人も結婚指輪を買ったと話していたな」
意外にも、オルキデアの周りには、クシャースラとセシリアを始めとして、アルフェラッツやラカイユなど既婚者が多い。
上官のプロキオンもまた既婚者であり、士官学校時代の同期も大半が結婚していたのだった。
「アルフェラッツの夫婦は、何年か前に戦争孤児となった子供を引き取ってな。
休暇が明ける度に、休暇中は奥方と子供とどこに遊びに行ったかという話を聞かされるんだ」
「戦争孤児ですか……」
「戦争孤児の問題は、シュタルクヘルトだけじゃないんだ。ペルフェクトも抱えている」
戦争が長引けば長引いた分だけ、両国には孤児が溢れる。
両親又は片親が戦死した軍人の子供。
現地の戦争に巻き込まれ、両親を亡くすか、避難途中に両親とはぐれた子供。
または、戦争の貧困から両親を捨てられた子供などだ。
国が主体となって、孤児院や乳児院を作っているが、戦争が続いている以上、効果は焼け石に水であった。
そんな中、軍部の支援として、子供がいない軍人家庭や、収入が多く金銭的に余裕がある軍人家庭への養子縁組を行っていた。
軍人家庭以外でも希望すれば養子縁組が出来るとあり、特に人手が必要な農村部や農家からは好評らしい。
「そういえば、クシャースラとセシリアも引き取るか検討していたな。上官から散々勧められるとか」
「クシャースラ様とセシリアさんなら、きっと良い両親になれると思います」
結婚四年目にして未だ子供がいない親友夫婦は、軍部の格好の獲物だそうだ。
度々、養子縁組を勧められて困っていると、クシャースラが愚痴を溢していた。
ただ、クシャースラが仕事で王都を留守にしがちなので、そこまで執拗に勧められている訳ではないらしい。
引き取るように言われても、せいぜい不在にしがちな夫に代わり、セシリア一人でも面倒が見れる年頃の子供だとも話していた。
「そうだな。アイツらなら、きっといい父母になれるだろう」
「そうですね……」
俺とは違って。という言葉も出かかったが、それは言わずに留めておく。
おそらく、自分と同じことを考えたのであろう。
向かいの席で、悲しげに微笑む仮初めの妻を前にして、とても言えそうになかった。