アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ(修正中)
「俺が? 名付けなんてしたことがないぞ」
「なんでもいいんです。直感でつけてくだされば。さすがに、そろそろ名前が無いと不便なので……」

 犬猫を名付けるのとは訳が違うんだぞ、と思うが、名前が無いと不便なのは確かだった。

「何がいいんだろうな。いくつか挙げてみるか」

 指で数えながら、オルキデアは思いつく限りの女性の名前を挙げていく。ーーと言っても、知り合いか、過去に関係を持ったことがある女性の名前ばかりだが。

「マーガレット、ヴァイオレット、フォルテ、メグミカ、ローズ、セーラ、エリザベス、キャサリン、アナスタシア、セシリア、フレイ……」

 女性の様子を見ながら、オルキデアは名前を挙げていくが、女性は首を傾げて、ピンときていない様子だった。

「ドルチェ、マリエル、ヴェロニカ、ヒルダ、シャルロッテ、フィリア、アメリア、アリス、アリーシャ」
「アリーシャ……」

 すると始めて、女性が名前に反応を示した。

「アリーシャに心当たりが?」
「なんだろう。昔、似たような音を聞いたような気がして……」

 昔、とは記憶を失う前だろうか。
 それなら、女性の名前は、アリーシャに近い発音なのかもしれない。

「それなら、仮の名前はアリーシャにするか」
「アリーシャ……。そうですね。アリーシャ……」

「アリーシャ」を反芻する女性から、そっと離れると椅子から立ち上がる。

「決まりだな。他の者たちにも伝えよう」

 すぐにでも、アルフェラッツと女性ーーアリーシャについて対策を立てなければと思って、部屋を出ようとする。
 ベッドに背を向けたところで、「あの!」と後ろから声を掛けられたのだった。

「ありがとうございました。色々と良くして頂いて」

 振り返ると、女性が泣きそうな顔をして、オルキデアをじっと見つめていた。

「気にするな。さっきも言った通り、ここに君を……アリーシャを連れて来たのは俺だ。俺がここを離れるまで、君を気にかけるのは当然だろう」
「離れちゃうんですか……?」
「ああ。俺は本来、王都を守護する部隊の一つに所属している。
 ここは中継地として利用しているんだ。いずれは王都に戻る」

 ペルフェクト王国の王都・セイファート。
 王族だけではなく、貴族から貧民までの多くの民と、大勢の政治家、軍人などが住んでいる。国の縮図たる都。
 その王都を守護し、軍の総司令部となる軍本部に所属する軍人。
 その一人が、オルキデアであった。

 オルキデアは、直属の上官であるプロキオン中将の指示で、この襲撃に参加した。
 襲撃と襲撃跡地からの探索が、オルキデアが指示された内容であった。
 それらが終わったのなら、王都に戻らなければならない。

「王都に戻ってしまうんですね……」

 アリーシャは俯くと、掛布をぎゅっと握りしめた。

「そんな顔をするな。君の身柄は、信頼出来る者に託す。もう、この様な目には合わせない」
「そうですか……」

 消え入る様なアリーシャの言葉を聞くと、オルキデアは病室を出たのだった。

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