アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ(修正中)
「ネックレスを貸してくれないか」

ネックレスを借りると、留め具を外して、アリーシャの首にかける。
手探りで留めようとするが、なかなか留め具がはまらなかった。

「よく見えないな」

抱きしめるようにアリーシャの首の後ろに手を回すと、華奢な肩から顔を覗かせる。
留め具にはめると、そっと身体を離して、愛妻の胸元で光る二色のネックレスを見つめたのだった。

「よく似合ってる」
「ありがとうございます……。大切にします」

はにかみながら大切そうにネックレスを手で包むアリーシャに微笑を浮かべると、スプリングの音と共にベッドから立ち上がる。

「昼間に風邪薬を買ってきた。それを飲んでもう少し休め。ああ。その前に食欲はあるか? 消化に良さそうな、軽めの夕食を作ったんだが……」
「少しは食べられそうです。あの、今日は本当にすみませんでした。屋敷の事までやって頂いて……」
「気にするな。お前が健康なのが一番さ」

すると、不意に伸びてきたアリーシャの手に右手を掴まれる。
そのまま軽く引っ張られると、アリーシャのまだ赤みの残る柔肌の頬に、そっとオルキデアの手を当てたのだった。

「やっぱり、オルキデア様の手、冷たいですね……」
「そうか? お前が温かいんじゃないか?」
「それもありますが……。何度か顔を拭いてくれましたよね。氷枕も交換してくださって……」
「なんだ。起きていたのか」

起きた素振りを見せなかったので、熟睡しているのかと思っていたが、どうやら気づいていたらしい。
するとアリーシャは、「だって……」とオルキデアの手を頬に当てたまま、ますます赤面する。

「目を覚ましたら、この手が離れてしまうと思ったので……。それで寝たふりをしていました」
「全く……」

呆れた様な、嬉しい様な、こそばゆい気持ちになり、もう片方の手もアリーシャの頬に当てる。

「嬉しい事を言ってくれる」
「そ、そうですか……? でも、今、とても気持ちいいです」

撫でられて気持ち良さそうな顔をする猫の様に、アリーシャは身を委ねてくる。
そんなアリーシャが愛おしくて、オルキデアは口元を緩めたまま、しばらく愛妻を見つめていたが、やがて顔を近づけると互いの唇を合わせる。
いつもとは違い、すくに唇を離すとアリーシャの肩を抱いたのだった。

「夕食を持ってくる。それまで、横になって待っていろ」
「汗を掻いたので、待っている間に、着替えてもいいですか?」
「そうだな。着替えくらいなら良いんじゃないか。必要なら手を貸すぞ」
「い、いいえ! 一人で着替えられます!」
「今更、恥ずかしがるような仲でも無いだろう」
「で、でも、今日は風邪をひいているので……! 風邪をうつしてしまったら、それこそご迷惑になってしまいます!」
「アリーシャから貰えるなら、風邪でも何でも嬉しいさ」
「他の皆さんが困ります! 勿論、私も……」

軽く咳込んで、肩で息を繰り返すアリーシャに、悪ふざけが過ぎたと反省する。

「分かった。でも、本当に手が必要な時は声を掛けてくれ。
汗を掻いたのなら、ホットタオルがあった方がいいな。まだシャワーは難しいだろう。タオルで身体を拭いただけでも、気分は随分と変わる。夕食を下げる時にでも。持って来よう」
「ありがとうございます」
「着替えは後で洗っておくから、その辺にでも置いてくれ。くれぐれも温かい格好をするんだ」
「はい」
「いい子だ」

藤色の頭を撫でて、額に口付けると、そっと部屋から立ち去る。
緩んでいた口元を引き締めると、夕食の用意をしに階下へと降りたのだった。

この時は、アリーシャの事で頭の中がいっぱいになっており、後をつけてきて、屋敷の門前にいた兵の存在をすっかり忘れていた。
これこそが、二人の関係を大きく変えるきっかけとなる不穏な予兆だったと、後から知る事になるのだったーー。
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