アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ
 王都・セイフォート。
 身分社会であるこの国を象徴するような都市。
 富める者から貧しい者まで、貧富の差の激しい者たちが一緒くたに住んでいる。
 都市の中心部には王族の住む王宮と、財政や政治を司る文官、都市の防衛や軍事を司る軍部がある。

 途中、何度か休憩を挟みつつ、オルキデアたちは夜近くに王都の軍部に着いたのだった。

「失礼します。オルキデア・アシャ・ラナンキュラス。只今、帰還しました」

 部下たちに片付けを、アルフェラッツにアリーシャを頼むと、その足でオルキデアは上官の執務室に向かう。

「ああ。よく戻った。ラナンキュラス少将」

 オルキデアとは違い、綺麗に整頓された風通しのいい執務室の机に着いていたのは、四十代近くになる男だった。

「何ごとも無く安心した。今日はゆっくり休んでくれ」

 上官であるプロキオン中将は、平民出身の軍人であった。
 身一つで戦場で挙げてきた功績は、オルキデアの比ではない。
 その功績を称え、数年前に国王より子爵位を賜わっていた。
 平民出身だけあり、気取ったところもなく、部下からの信頼も厚い上官であった。

「ありがとうございます。諸々の報告は先にデータでお送りしております。詳細な説明はまた明日以降に」
「ああ。そうしてくれ。ところで、お前に二人の客人が来ていた」
「客人ですか?」
「ああ。まずは、オウェングス少将だ」
「オウェングス……クシャースラですか。確か、クシャースラは、北部基地に遠征していたかと思いますが」
「ああ。王族の慰問の護衛でな。帰還したとかで、お前に会いに来ていたぞ」

 クシャースラ・オウェングスは、士官学校時代の同期であり、オルキデアの親友であった。
 クシャースラは平民出身ではあるが、オルキデアが「自称・平民代表」の同期に、一方的に売られた喧嘩を買ったのをきっかけに、友人となった。

「自称・平民代表」の同期は、貴族出身の同期を目の敵にして、同じように平民出身者と徒党を組んで、貴族出身者に喧嘩を売っていた。
 オルキデアもその被害に遭った一人であり、難癖をつけて喧嘩を売られ、殴り合いになった際、駆けつけてくれたのがクシャースラであった。

 それまで、オルキデアとクシャースラは、同期であるということを除いて、全く接点はなかった。
 誰とも関わらず、常に冷めた顔で一人でいるオルキデアに対して、真面目で周囲から人望もあるクシャースラは、正反対の人間であった。

 しかし、この喧嘩の後、不思議と馬が合った二人は急速に距離を縮め、やがて互いに「親友」と呼び合うまでになった。
 士官学校を卒業して、軍に配属されてからも、 クシャースラとの付き合いは続いた。
 二人揃っていくつもの功績を重ねて、今では二十代という若さで少将にまで昇級したのだった。

 その間に、クシャースラはオルキデアを通じて知り合った女性と結婚していた。
 名ばかりではあるが貴族出身の女性であり、オルキデアにとっては大切な妹的存在でもあった。
 そんな二人の結婚を、オルキデアは祝福したのだった。

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