泣いてる君に恋した世界で、


「うわあ槙田(まきた)くんのお弁当美味しそ〜」

突然耳元で聞こえた豊かな声に振り向く。

 
びっくりした……。

誰だっけ……たしか……去年も同クラだったような………。

 
「それ卵焼きだよねっ」

「あ、うん」

「綺麗だね!」

「……ありがと」


俺と相手の温度差は誰もが見ても圧倒的だ。

卵焼き好きなんだろうか。


「食べる?」


意を決してそう聞いてみた。

しかし返ってきた反応は思っていたものとは違った。

全力で否定するように両手を振ってそのまま教室を出て行った。分からなすぎる反応にただ首を傾げてそれを口にする。


あんな反応するんだったら聞かなきゃよかったし、あっちも食べたそうな目しないでほしかった。

なんせ、高1はほとんど人と喋るのを避けていたくらいの俺だ。まず話しかけてくる人もそうそう居なかった。今年入って初めてまともに他人と喋ったんじゃないか?

俺が無愛想過ぎたから逃げちゃったのかな。
顔怖かったかな。

多分どっちもだ。それかまた別問題。


どちらにせよ、用がないなら話しかけない方が相手のためだ。独りに慣れてしまったから以前よりもっと人付き合いは苦手になってしまった。


――和希(アイツ)がいたら今頃俺はどんな俺になっていたのだろう。まったく違う高校生活をしていたのかな。


そんなことをぼんやり思いながら気付けばいつの間にかお弁当は空になっていた。


時計を見ると5限始まるまであと45分だった。

長いし、思ったより早く食べ終わったんだな。
教室にずっとは居たくないからいつもの場所に向かうことにした。


高校に入ったら屋上で昼飯食って寝転んだり昼寝したり―――なんて中3の俺たちは夢いっぱい膨らませていたと思う。


残念ながらそんな夢は儚く散って、現実は屋上はしっかり鍵が掛かっている高校だった。

唯一解放している日は文化祭だと風の噂で知ったけれど、メンタルがズタボロに落ちていたので一度も訪れたことはない。

だから今年は行けたら行ってみよう。


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