泣いてる君に恋した世界で、
君がいる世界
足が上手く運べているかわからない。どの道を歩いてきたのかもわからない。
ただすれ違う人が俺を心配そうに気に掛けようとする素振りを見せるのが見て取れた。
きっと俺の周りには黒いもやのような霧がかったものが纏わりついているのだろう。俺自身もそんな感じしてるから、きっとじゃないな。絶対だ。
なんで俺の大切な人は俺から引き離そうとするのだろう。
俺何かしましたか。
何したっていうんですか。
なあ、教えてくれよ。
いるなら教えてくれよ神様――!!
「あなた大丈夫?」
「おにいちゃんだいじょうぶ……?」
突然声をかけられて俯いてた顔を上げた。
そこには、70代くらいのおばさんと小さな男の子がいた。異様に視界に入った2人を強く結びつけている手が酷く胸の中を掻き立てる。
「あなた傘は?と、とりあえず雨宿りしましょ」
「おにいちゃんあっちいこ!」
そう言って小さな手で俺の手を掴んで引っ張っていく。
こんな小さな手に一体どこからこんな引っ張っていく力を蓄えているのか。
俺は情けないな。
羽星といい、この男の子といい……。小さな子に心配かけるような。
連れてこられたのは公園内の屋根付きのベンチ。
俺を座らせて続いて隣に男の子が座った。ふと視線を上げると一緒に連れてこられたはずのおばさんが傘と差しながら何かを両手で持ってこちらに向かっているところだった。
「はい。口に合うかと迷ったのだけれど。おしるこ大丈夫かしら。ずぶ濡れだから寒いでしょう」
年寄りの頭でこれしか目がいかなくてね、と恥ずかしげに笑っていうおばさんに男の子は容赦なく「ここあとかこーんぽたあるよ!」と自販機のある方へ駆けて行こうとする。
それを止めたのはなんでか俺だった。
「いいよ。ありがとう。有難うございます」
声はハッキリと出せていなかった。掠れていてちゃんと届いているかもわからない。でもおばさんと男の子は声を揃えて「いーえ〜」と笑った。
俺もつられるように口角を緩めた。
いつの間にか肩には薄いタオルが掛けられていることに気付いて言いかけると「いいわよそのままで」とやんわり断られる。
3人で雨音を聞きながら少しばかり静寂に包まれていると、男の子が口を開いた。
「あめすき?ぼくはねぇ……あんまりすきじゃない」
「そうなんだ」
「おにいちゃんは? あめ すき?」
その質問に悩んだ。好きか嫌いかの二択しかないのに難しい。だから分からないと答えた。
「ふう〜ん。でもね、ぼくカサはすきなんだ!なんかねわくわくする!みて!ぼくのカサ。キレイでしょ〜!」
バッと身の丈にあった淡い紫の傘を広げれみせた。その場で振り回そうとするのをおばさんが謝りながら優しく制しているその様子に懐かしさが込み上げる。
羽星もよくやっていたなと。
「ぼくねあめはすきじゃないんだけど。お花みたくみえるこの傘がすきなんだ!」
ドクリと胸の奥が刺激されて思わず口に出す。
「紫陽花?」
「!! そう!アジサイ!」
瞳をキラキラとさせてぴょこんと隣に着席して足をパタパタさせる。重ねておにいちゃん知ってるの?とでも聞きたそうにもじもじしている。
「紫陽花は俺も好き」
好き。花そのものじゃなくて。彼女が描いた紫陽花が――。
「……おにいちゃん?」
不思議そうに覗き込んだ大きな瞳に俺の顔が映って……。
なに泣いてんだよ。情けないな。
「な、なか、っなかないで、……おにいちゃ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ん゙!」
うえーんと俺より盛大に泣き始める。その声に感化されたように俺も止まらなかった。
おばさんはあらあらとあたふたしながらも男の子――カケルくん泣かないでと背中を撫でてさらには俺の頭までも撫でてくれていた。
声を押し殺してなく俺と怪獣でもいるかのようなギャン泣きのカケルくん。
側から見れば異様すぎる光景だろうな。学生と子どもが雨の中ギャン泣きしている2人をおばあちゃんがやさしくあやすこの様は。
孫同士の喧嘩とかそんな感じに見られるだろうか。
俺たちは終始泣き続けた。