未来の種
「優⁉︎ そっちはどうなの? ロックダウンなんて、物騒なこと言ってるのをテレビで見たけど…。あなた、全然連絡取れないから…」

「心配かけてごめん。
……俺、日本に帰ろうと思ってる。こっちから日本には帰れるみたいなんだ。やっと飛行機が取れた。
………まだ、大した結果も残せてなくて申し訳ないんだけど…。」

これほど、言いにくい事はなかった。
不甲斐ない自分に、申し訳ない気持ちがいっぱいで。母の期待に応えられていない…。

「そう……良かった〜。」

…え? 良かった?

「優、頑張ってたみたいだから、お母さんも簡単に帰ってこいとは言いにくかったの。決心してくれて良かったわ。
そっちは日本とは比べ物にならないくらい、感染状況が厳しいのでしょう? あなた、小児喘息の既往があるのに、感染したら大変よ。お父さんと心配してたの。
ただでさえ離れていて、毎日心配してるの。
それがこんな状況になって…。
飛行機が取れたなら一日も早く帰ってきて欲しいわ。」

「母さん…? 
俺、大した結果も残せてないのに…」

「何言ってるの? 2位だなんて、立派な結果を残してるじゃない! 
あなたは悔しかったかもしれないけど、立派よ? 凄いことだと思うわ。
優は私達の誇りよ。」

「母さん…」

拍子抜けだ…。
気負ってたのは、俺自身の気持ちだったんだ。勝手に母の気持ちを読み違えていた。勝手に畏れてた。
違ったんだ…。
話してみたら、ただただ息子を心配する普通の母親だった。いや違う。喘息が出た夜は、一晩中起きて背中を摩ってくれた、昔と変わらない愛情に溢れた母親だった。
俺は今も大切に思われてる…。

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