サヨナラまでの3日間。
  序章 Dreams,Brilliance and Me.
 空を切る手。思考を遮る喧騒と、極彩色。あと少し、手が伸びれば。僕はこの日の悪夢を何十、何百回も見ることになる。
「あれ、今日は部活無いんだったっけ。」
「うん。だから、一緒に帰ろうよ。」
 
 僕の幼なじみの三河結月は、手芸部に所属していて、手先が凄く今日で、よく僕に手作りのプレゼントをくれる。
 
 僕の名前は、桜川宇宙。学校ではそこそこの友達がいる。襟足の少し長いショートカットに、170センチメートルのそこそこな身長。なんとも言えない普通の顔で、普通の性格。それが僕だ。普通はコンプレックスだ。結月には、沢山相談した。
「普通普通って、なによ。宇宙の顔も、声も、十分個性よ。」
 いつだって僕を笑顔にしてくれた。傍にいる事が当たり前で、当たり前すぎて。この日々があいつに一瞬にして奪われるなんて思っていなかった。
 
 第1章 Overrun
 僕から幸せを奪ったのは、シロと呼ばれる殺人鬼だった。奴は、僕の目の前で彼女を轢いた。白いパーカーを着て、フードを深く被っていた。顔も、何もかもわからなかった。警察を呼んだとき、車のナンバーを覚えていたので伝えたが、警察で調べた時には、既に廃車になっていた。
 第2章 continue
「久しぶりだね、結月と一緒に帰るの。」
「そうだねぇ、いっつも部活で忙しいから。」
「あんまり無理しない方がいいよ。」
「大丈夫。手芸は大好きだから。」
「そっか。」
 数分間の沈黙が続いた。数分間の気まづい時間を壊してくれたのは彼女だった。
「宇宙はさ、もう大学、決めたの?」
 僕達は高校三年生で、そろそろ、本格的に志望大学の対策をする時期になっていた。僕にも、結月にも、将来の夢があった。
「まだ、だけど...行きたい持ってとこはある。」
「そっか。」
「そうだ、今日はオリオン座流星群が見えるんだって。」
「そうなの?見たい!見に行こうよ!」
 そう。彼女は星が好きだった。凄く詳しい訳ではなかったが、星についての好奇心は、誰よりもあったと思う。勤勉な彼女は、きっと将来の夢も叶える、と、思う。彼女の夢は天文学者だった。
 
 第3章 The sound of sadness
 僕達は田舎の小さな山の山頂に来ていた。暗い世界には、星がよく見える。きっとこれは、あかりの少ない田舎だから見える景色なのだろう。東京は夜でも眩しくて、星が周りの光に負け、見え辛くなっているらしい。この世界がずっと消えなければいいな。ふと、そう思った。だが、永遠に続く時間なんてない。そんな事、とうの昔に知っていたから、僕たちは幾数もの流星を見てたわいも無い会話を交わした。0時を周り、僕達は帰路に着いた。結月はさっきの話の続き!と前置きをして、話し始めた。
 
「私の将来の夢があるの。」
「僕にもあるよ。結月の夢はなんだろう、星に関わることかな。」
「大正解!私の将来の夢はね、天文学者だよ!夜空とか、宇宙には、たっくさん面白いことがあってね、色んな天体とか、調べてまた私のように空に興味を持った子の役に立ちたいの!」
「素敵だね。優しい結月らしいよ。」
 僕は微笑んだ。いつになく優しい顔で。
「そ、そうかな、」
 結月は、顔を少し赤らめながら言った。
「そ、宇宙の夢は何?」
「僕?僕は───」
 
 ドンッ、キキーッ
 
 僕が結月に将来の夢を伝えようとした刹那。真っ赤な景色が僕の眼前に拡がった。どうか白昼夢であってくれと願ったが、その願いは儚く散っていった。ナンバー「54ー32」の車に、結月は...。やけに覚えやすい車のナンバーを見て僕は、奴の表情は見えないながらに、バカにされたような気がした。覚えやすいこのナンバーも、覚えたところで柚月は生き返らない。そんなふうに、言われた気がした。
 
 第4章 Words of mourning
「結月さんは、車体にはね飛ばされ、多くの出血による、出血性ショックによって、亡くなりました。」
「そう、ですか。」
「様々なお気持ちあると思いますが、どうか、ご友人の貴方と、御家族に弔って頂きたいです。」
「はい。」
「この後直ぐに、警察の方がいらっしゃります。」
「分かりました。」

 僕が応えると、遠くからドタドタと走る音が聞こえた。
「結月は、結月は...!」
 いつの間にか、僕の目には涙が浮かんでいた。
「三河さん。」
 彼女は、結月のお母さんだ。いや、正確には「お義母さん」だけど。結月のお義母さんは、僕の涙に察したのか、すぐに悲しそうに、でも、覚悟した顔で僕を見た。
「そう、なのね、?」
「はい。三河さん...。僕と一緒に星を見に行った帰りでした。僕はすぐに結月さんを助けられる距離に居たのですが、すみませんでした。」
「ううん、宇宙くんは何も悪くないのよ。だから、もう泣かないで。」
 そう言った三河さんの頬には涙が伝っていた。
 
 第5章 Can I ask a question?
 朝6時55分目が覚めた。今日はいつもより深い眠りについた。だが、眠っている間に、繰り返し繰り返し、同じシーンを見た。彼女が轢かれてしまうと分かっているのに、夢の中では。触れ合えない空間。伸ばしても届かない手。残る情けなさと不甲斐なさ。そんなもどかしさに悶々としながら眠っていた。
 結月の葬儀は命日の3日後になった。つまり、今日含めあと3日。3日のうちに、結月を捕まえた奴を見つけたかった。あ、そう言えば今日は警察がもう一度話を聞きに来るんだっけ。準備しなくては。
 
 ピンポーン
 
 高らかになる、よく聞いたインターホンの音。その音が今は、ほのかに寂しく感じた。結月は絶対に、インターホンを2回鳴らす。早く出てきて!の意思と、暇だよの意思を混ぜたかららしい。その2回目のインターホンが、なる度に僕は少し頬が緩んだ。2回目が無いだけで、こんなに悲しく感じるなんて、なんて女々しいんだ、僕は。
 ドアを開け軽く挨拶をする。
「どうも。」
「こんにちは、災難の次の日で申し訳ないね。私は警視庁捜査官の乾だ。少し分かったことがある。入れてくれないかい?」
 彼は真面目な顔をした。その真剣な表情が、少し怖く感じた。理由は分からない。あまり真面目な顔を見てこなかったからだろうか。僕の家は、面白いことや、楽しいことが好きで、僕には姉がいるけど、僕も姉も親に怒られることは滅多にしなかった。結月はいつもおどけていたような気がして、真剣に話をする事はあんまりなかった。僕も結月も面白いことや楽しいことが好きだったから。
「君が教えてくれた情報を元にね、犯人をなんとか割り出せそうだよ。だが不思議な事があってね、既に『54ー32』のナンバーの車は廃車になっていたよ。犯人が拾って使った可能性もあるけどね。」
「でも、僕が見た限り、新品の様に綺麗だったかと。」
「そうだよねぇ、そこが引っかかるんだよねぇ。事件現場を見ていた者も全員同じことを言っていたよ。」
「そ、それで、犯人は誰なんですか?」
「まあまあ、そう焦らずとも教えるよ。連続殺人鬼の『シロ』という人物だ。まだ模倣犯の可能性も捨てきれないけれど。」
「!ありがとうございます。あと、もし捜査に協力出来るような情報を思い出せれば連絡します。今日はありがとうございました。」
「あぁ。よろしく頼むよ。よし、今日はこれでお暇するよ。入れてくれて、ありがとう。」
 いい人だなと思い僕は乾さんを見送った。僕は、この時は知らなかったんだ。恐ろしい、裏の、彼を。
 
 第6章 The second day
 ふわぁと軽く欠伸をして目が覚めた。今日もまた、同じ夢を繰り返し繰り返し見た。あぁ、なんて苦しいのだと何度も考えたが、結月の苦しみに比べればどうって事ないと思い、乗り越えてきた。
 結月の葬儀まで今日含めあと2日。今日は外へ行こうかな。外の空気を吸いたい。そしたら少しは、気も紛れるかもしれない。10月の日差しと秋桜の香りが、僕の鼻の奥を刺激した。意識したことなんてなかった。常に隣にいた結月からはいつもすずらんの香水の香りがしたから。僕は今まですずらんの香りなんて嗅いだことが無かったけれど、いい香りだと思った。結月が着けていたからかな。強すぎない、優しく香るその香水は、純新無垢で、綺麗な結月そのものを表しているようだった。
 しばらく外の空気を吸って、秋桜の香りを堪能した。初めて近くで嗅いだその香りは、とても、とても、美しかった。
 
 第7章 Relief
 家には、なんの香りもなかった。すずらんの香りも、秋桜の香りも。でも、心地よかった。何も無いことの安堵が、僕を飽和させていた。君のいない右側に、こんなに直ぐに慣れるなんて思ってもみなかった。僕は、結月に恋愛感情を抱いたことは無い。それが僕の本懐だ。今となっては確かめようがないが、結月は僕をどう思っていたのだろうか。結月は華奢で、純粋で元気で、顔も美しい。だが結月は、他人に迎合することが多かったかな。でも、色々な男の人から人気があった。OB、後輩、ほかにも沢山の人に。そんな彼女が僕と一緒にいる意味はなんだったのだろうか。僕なんかよりかっこよくて優しくて、頭がいい人だって沢山いたのに。いつも彼女は僕のそばにいてくれた。
 不幸なことが起こった時人はネガティブ思考に陥りやすい。でも、そうなってはいけない気がした。分からないけど、結月は、僕が『普通』でいることを望んでいるような。
 僕は天井を見上げ、ふとある日のことを思い出した。
「なんだいね?また自分のこと普通普通って!十分個性あるし、普通だとしても悪いことなんてないんじゃない?全てが普通ならさ、『普通に優しい』ってことじゃん?ね?宇宙の優しさに救われる人がいつか現れるよ。」
 にひひなんて笑いながら言った、その言葉が、僕にどれだけの影響を与えたのか結月は知らないのだろう。
 普通はコンプレックスだった。そうだった、はずなのに。結月の笑顔を思い出せば、普通も悪くないかもと、考えてしまう。恐ろしいものだ。僕は他人を元気づけるのとか、笑顔にさせるだとか、そういう事がとても苦手だ。だけど、笑うことが好きだった僕は、ひっそりと、結月にあこがれを抱いていた。
 今までの思い出を思い出し、小さい頃から、星を見に行った日までのことを考えていたら、僕は再び安堵して、風呂にも入らずに気絶でもするかのように眠ってしまった。
 
 第8章 A different drean?
 眠ったとき、僕はまた同じ夢を見るのか...と憂鬱感に浸っていた。
「そ、宇宙の夢は何?」
 あぁいつも通りの夢だ。
「僕?僕の夢は───」
 もう見たくない。嫌だ。
 ...?車や、周りの人達の動きが止まった。時が止まっている?普通ならありえないけど夢はなんでもありだから、私は簡単に納得出来た。
 そして、動きは静止したまま、口だけが動いた。皆口々に同じようなことを言い始めた。
「貴方がついていながら、助けられないなんて惨めね。」
「お前が代わりに死ねばよかったんじゃないか。」
「結局無能な貴方じゃ、彼女を幸せにするなんて不可能だったでしょうけど。」
 全部、僕を侮辱するような内容だった。
 惨め?僕が死んだ方が良かった?無能?
 全部全部痛い程知ってる。でも、夢の中で僕を肯定してくれる人はいなかった。
「そんなことないよ。」
 僕はハッとして、少し僕より身長が低い結月を見下ろした。僕の見慣れた微笑みでこちらを見つめていた。
「私は、天文学者になりたかったから、後悔も悲しみもたっくさんあるよ。でも、宇宙くんがいきててくれたから、私はそれでいいよ。だから、自分が死んだ方が良かったなんて言わないで、惨めじゃない。無能でもない。私の、私の、大事な人だよ。誰も侮辱することは許さない。」
 気づいたら、結月は泣いていた。我慢するような泣き顔に僕は辛くなり、結月の涙を拭った。「泣くな。泣いたら僕が許さないから。」
「宇宙...。」
「もう、目覚めなきゃ行けないみたいだ、ごめんね。結月。またね。」
「宇宙の将来の夢って...!」
 結月がなにか叫んでいたけど、遠のいていく意識と相まって何を言っているのか聞こえなかった。
 
 第9章 strange
 ハッとして目が覚めた。今日はもう、午後から葬式がある。僕が目覚めたのは5時過ぎだった。久しぶりの早起きに体がバキバキと傷んだ。きっと、早起きのせいだけでは無いのだろうけど。今日の夢は何だったんだろうか。明晰夢のように、自分の意思を喋ることが出来た。本当に結月に会えた気がした。まださっきの結月の声が耳に鮮明に残っている。
 さてと、そろそろ準備をするか。と動き出し、時計を見るとすでに6時近くを回っていた。1時間ほどぼーっとしてたと思うと驚いた。僕的にはまだ15分位の気分だったから。
 黒い詰襟の学ランを纏いご飯を食べ、歯を磨き、全ての準備を終えた。あとはスマホをいじって時間を潰そうと思っていた。のに。
 突然僕の目の前が明るくなる。僕は間接照明が好きで、滅多に部屋の電気は付けないのに。眩しくて目を瞑る。目を開くとそこには、大好きな幼なじみの、結月がいた。
 
 第10章 you...。
「え、ゆ、結月、なん、で?」
「んー?なんでって、宇宙。帰っちゃうんだもん。せっかく夢で逢えたのに。」
「え、あれ、ほんとに...。」
 結月はにこにこ笑ってる。僕はまだ状況を飲み込めていない。
「もうね、時間が無いの。だから一つだけ答えて欲しいの。」
「うん。」
「宇宙の将来の夢を知りたいな。」
「...」
 僕は迷った。今、その職業を目指すべきか迷っていたから。結月は時間が無いと言った。だから僕は。
「今はちょっと迷ってるんだけど。警察官に、なりた、い。」
「!いいじゃん!宇宙にはきっと似合うよ!」
 嬉しくて、僕は今思っていることを全て吐露したくなった。やっぱり、結月は優しいなぁなんて考えながら。
「そうだ。私今ね、夢が変わったよ!」
「夢?」
「うん!綺麗な星になること!それでね、他の天文学者の役に立つの!なんか素敵じゃない?」
「うん。素敵だ。綺麗な結月だから、きっと綺麗な星になるよ。」
 僕は思わず泣いてしまった。結月には泣かされてばかりだ。
「泣かないで。」
 と触れられない袖で僕の涙を拭おうとする。
「ありがとう、泣かないよ...。」
 と、僕がいえば、安心した顔をして、
「いってらっしゃい。」
 と、優しく微笑んだ。
 
 第11章 Throw away the spiciness
 結月が消えたのを確認したあと、時計に目を向けると12時を過ぎていた。もうすぐ葬儀の時間だったから、僕は家を出て鍵をかけた。
 道中、ふとシロの事を思い出した。なんだかもうどうでも良くなってきた。乾さんからの連絡は無いし、テレビでその名を聞くことは無かったから。
 少し親族の方や、友達に挨拶をしていたら、時間はとうに過ぎ、葬儀が始まる時間になった。
 葬儀が始まった。皆、涙を流していた。僕も涙目になり、時折なみだを流した。でも、泣かないでと、結月に言われたから。あまり泣かなかった。もちろん内心号泣していたけど。
 長い長い葬儀が終わった。みな静かになっていたが、僕は、
「結月は面白いことが好きだったしさ、しんみりしないで笑おうよ。当然辛いけど、きっと1番辛いのは結月だしね。」と、声をかける。
 すると皆、「幼なじみの宇宙くんが言うならね。」と笑顔で溢れた。ここに、いつも、結月が混ざっていた。結月は、面白いネタを言ってくれたよね笑と、色んな話をした。でも、楽しい時間は、すぐに終わりを告げる。
 
 プルルルル
 
 僕の携帯がなる。
「あ、警察の乾さんだ。ごめんちょっと抜けるね。」
 と、いい、僕は外へ出た。
「乾さん、呼びました...か...って、乾さん?」
「その呼び方はやめて欲しいなぁ?シロって呼んでくれよ、再会の証にさぁ?」
 そこには、白パーカーに深くフードを被ったシロ、いや、乾さんが立っていた。
 
 第12章 I believed in you
「シロ、乾さん...なん、で?」
 声は震えていた。あんなに優しく接してくれていた、乾さんは、結月を殺した犯人、シロだったのだ。
「なんでもクソもねぇだろ。あの女が気に入らなかった。それ以外に動機なんて必要あるか?」
 と、乾さんは、あの時とは、全く違う口の悪さを見せた。
「気に入らないだと?」
 さっきの震えは全て嘘だったかのように、僕は言葉を吐いた。
「あぁアイツの母親は、俺の元妻なんだよ他の男と子供作りやがって。アイツが悪いんだよ。」
「何故、生まれてきた結月が悪者になるんだ!」
「だからぁ、気に入らねーって言ったじゃん?聞いてた?」
「申し訳ないですけど、大人しく捕まってくださいね。もう、警察呼んでもらいましたから。」
「あ?そんな低レベルな脅しが俺に通じるとでもっっ!!」
 そこに居たのは、ラグビー部の友達。坂田優だった。
「お前らも押さえろ!!!」
 あとから聞いたら、友達の佐藤里奈が気づいてくれたらしい。たまたまごみ捨てに行った時に、言い合いをしている僕達をみたらしく、警察に連絡をしてくれた。
 数分で警察が来た。
「まぁさかお前が『シロ』だったとは...。なぁ乾?」
「もう逮捕してください。黒尾さん。」
「あぁ。」
 乾さんに手錠を填め逮捕をした。
「10月13日、19時25分。乾憲明。殺人罪で、逮捕する。」
 
 第13章 letter
 乾さん元い、シロが逮捕された。まさか、あんないい人が結月を殺したと思うと、本当に驚きだ。
 あれから僕は1人で花言葉を調べていた。あの時の秋桜とすずらんだ。いい匂いなのはもちろんだけど、結月のことだからなにか裏があるような気がして。
 秋桜 花言葉
 で検索すると、
「乙女の美麗」と出てきて、まるで、まるで、結月のようだと思った。次は結月の香水、すずらんを調べた。
 すずらん 花言葉
 ...僕は、目を見開いた。
「宇宙くん。」
 すると、三河さんが僕に話しかけてきた。
「三河さん。どうしたんですか。」
「ごめんねこれ、結月から預かってたんだけど、渡し忘れてたの。」
 と言って、三河さんはポケットから封筒を取りだした。
「これは?」
「結月が、もしかしたら私が急に死ぬかもでしょ?だからその為に宇宙に手紙を書いておこうって。」
「そう、なんですか...。」
「その時は縁起悪いこと言わないの。と思ってたんだけどね。」
「そうですね。ははは...。」
 僕は愛想笑いをして手紙を受け取った。
 
 宇宙へ
 この手紙が宇宙に届くことはない方が良かったんだけど、届いてしまったならしょうがないね。私は死んじゃったのかな?でもね、私が生きてきたこの世界は素晴らしい世界だったよ。宇宙も知ってるでしょ?
 だから私は天文学者を目指していたの。宇宙は警察になりたいってことは、この世界のことどう思ってるのかな?
 なんてね。そんなのどうだっていいの。本題に入るね。私は宇宙のこと、すごく大事な友人だと思ってる。私が面倒くさくなることなく、一緒に居てくれたでしょ?すぐ友達と喧嘩しちゃう私にとってはすごい心の支えだったんだよ。
 私がいつ死んじゃったのかは分からないけど、もっとながく宇宙と一緒にいたかったなぁ。宇宙が笑ってたら私も嬉しかった。だからね宇宙。私が居なくなっても、泣いちゃダメだからね。お葬式の時だけだよ!泣いていいのは笑。
 私はきっと星になって、何か天文学者の役に立ててる!そう信じる!だからね。宇宙も夢を諦めないで。諦めなければきっとできる。空から見守ってるよ。宇宙が、夢を果たすその日を。
 
           結月
           
 僕は、涙を流しそうになっていたが、必死にこらえていた。結月が泣くなと言っている。なら僕は泣かない。結月は僕の笑顔を好きだと言ってくれた。僕も結月の笑顔が好きだ。だから結月に笑っていて欲しいから、僕も笑うよ。
 警察官になりたいと言った。確かに警察官になりたい。いやなりたかった。結月が頑張ってくれた。なら僕だって頑張ってみせる。なんの取り柄もない僕だけど、結月がついてると思えば大丈夫。すずらんの花言葉、あれは、きっと結月からのメッセージだったのだろう。僕は深読みしてしまう性格だとわかって、この手紙を書いた日に付け始めたのだろう。すずらんの花言葉は、「再び幸せは訪れる。」だった。
「結月が頑張ってくれたんだ、警察官には、なれないよな。」
 僕は涙を1粒だけ流していた。           
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