短編集(仮)
【side花】
——それは、あたしと彼の甘い思い出。
*
「ごめん! あたしが確実に悪かった!」
パンッ! と音を立てて手を合わせ、深々頭を下げる。
あたしは、大きな勘違いをしていた。
「そんなに気にしないでよ花。近藤くんにも聞こえてなかったみたいだし」
私の友達の日名瀬天音は、ついさっき近藤日奈瀬にチョコを渡したらしい。罰ゲームの。
——《好きな人と1日デートする。口実など全て自由。※ただし、いない場合は相手を自由に決めて良し。》
めちゃくちゃなルールだし、やりたくなかったけど、なずなが強行突破しちゃったっていうか…。あたしも、負けなきゃいっかって、軽い気持ちで賛成しちゃったんだよね。
バレンタインの2日前。金曜日。あたしとなずなと天音は、トランプ…というかババ抜きで負けて、罰ゲームをすることになった。ちなみにあたしはワースト3位。
「でも、やっぱりちゃんと謝らないと」
あたしは、天音は好きな人がいないんだと思ってた。それで、仕方なく“モサ男”こと近藤日奈瀬にしたのだと。
でもやっぱり、好きじゃない人とデートなんてつまんないじゃない? せめてなずなみたいにかっこいい人にするようにオススメしてしまったのだ。知らないとはいえ、聞こえてなかったとはいえ、酷いことを言った。謝らないと。
モサ男が帰ってきた。
なぜ、天音と一緒に戻ってこなかったのかは知らないが、なんだか放心しているようにも見える。…髪長すぎるし俯いてるからよくわかんないけど。
「ごめんモサ男! あたし、失礼なこと言った!」
謝ったけど、モサ男はずっと無言で、そのうち頷いてくれた。