恋獄の鎖
 それからというもの、比較的意識のしっかりしている時はいつもミハエルの手紙を読み続けた。

 短期間に何度も何度も繰り返し目を通したが為に、すでにもうその文面は完全に覚えてしまった。頭の中では、ミハエルの声がそれを読み上げてさえもいる。

 けれどミハエルの書いた文字が見たくて、飽きることなく眺め続けた。


 やがて起きていられる時間が日に日に減り、目も霞んで来ると、いよいよその時が近いと悟る。そしてより一層、ミハエルの全てを自分の身体の至る場所に焼き付けるのだ。


「美しいお嬢さん、どうかしましたか」

 目を閉じれば初めて出会った日のことが蘇る。

 出会わなければ良かったと後悔したことはただの一度もない。

 その代わり、出会えて良かったと思ったこともなかった。


 生まれ変わっても、再び巡り会えたとしても、絶対に愛してなんかやらない。

 手に入らない愛だけを求めて苦しめばいい。

 わたくしの手首と繋がる細い鎖でがんじがらめになればいい。

 白百合に誘われ、白百合の毒でじわじわと弱って行く美しい蝶の姿を、いちばん近くで笑いながら見届けるのだ。


 来世なんてものが本当にあるのかすら、分からないけれど。



 ――今度はあなただけが、苦しいだけの恋に落ちてしまえばいい。


 呪詛でもあり祈りでもある思いを胸に、わたくしは二度と醒めることのない眠りに落ちた。

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