初恋彼は甘い記憶を呼び起こす
「友達が誘ってくるからたまにやってるだけで、サッカー部じゃないけどな」

「そっか。ていうか、話しかけてごめんね! 私、同じクラスなの」

「……知ってる」

 今さらだろ。俺がわかっていないとでも?
 ハッと思いついたように自己紹介でも始めそうな篠宮がおかしくて、じわりと笑いがこみあげた。

「そ、そう……だよね」

 自分で言って恥ずかしくなったのか、俺の言葉を聞いた篠宮は顔どころか耳まで赤くしてうつむいた。

「あ、これ良かったら飲んで! さっき買ったばかりだからまだ冷たいよ」

「え、いいのか?」

 篠宮は自分の鞄からスポーツドリンクのペットボトルを取り出して、俺の胸に押し付けるように渡してきた。
 運動したあとで喉が渇いていて、まさに今からそれを買いに行こうとしていた矢先だったので思わず受け取ってしまう。
 たしかに篠宮の言うとおり、それはまだひんやりと冷たかった。

「じゃあ私は帰るね! また明日」

「ああ。これ、ありがとな」

< 54 / 117 >

この作品をシェア

pagetop