マリアちゃんと鬼ごっこ
思い返せば違和感はいくつかあったかもしれない。でも先生を疑うなんて考えもしなかったことだから今まで気にしないようにしてた。
「そりゃ、知ってるわよ。大人は子供より区役所に出入りすることが多いのよ?」
「でもこの先には危機管理室しかないですよ。出入りなんてしない場所だし、行き方も普通はわざわざ調べたりしない。調べるのは……俺みたいに危機管理室に用があった人だけですよ」
すると、先生の乾いた拍手が届いた。
「さすが村瀬くん。勘が鋭いわ」
褒めるようにニコリとしている。先生はずっと職員室にいたと言っていた。でもそれを証明できる人は誰もいない。
「防災無線を流したのって……」
問い詰めようとすると、なぜか頭がぐらっとした。
足元が揺れている。壁も歪んでいる。いや、ぐるぐると回っているのは俺だ。
まるで船酔いでもしてしまったかのように視界も霞んできた。
「やっと効いてきたようね」
「な、なにを……」
「お茶に薬を盛っておいたのよ。村瀬くんは色々と知りすぎてしまったわ」
「俺を……殺すつもりですか?」
「安心して。入れたのはただの睡眠薬。うちの娘がずいぶん村瀬くんのことを気に入ってるみたいだから、このまま鬼ごっこが終わるまで大人しくしていてね」
「娘って……じゃあ、先生が……」
マリアのママ?
先生の笑ってる顔が反転してる。意識も遠退いていく。
……くそ、完全に油断した……っ。