【短編】桜咲く、恋歌にのせて

我に返ると気恥ずかしいもので、唇を離してもなお間近にあるヒデの顔から目線を逸らして俯いた。

上からはクスクスと笑い声が聞こえる。

あー、何だかもう、ヒデには適わない気がする。

私の髪を優しく撫でる大きな手。

広くて厚い、力強い胸板。

それなのに私を呼ぶ声はとても甘くて。


「結依ってば……。本当に頑固なんだからさ」


やっぱ甘くない。


「また頑固って言うし!」


ため息混じりに苦笑するヒデの言葉に反応した私は、顔を上げて体を突き放そうとした。

なのに……。

力強く抱き締められた体は、ヒデから離れることはなかった。


視線だけがぶつかる。

熱い、痛い視線。

愛しそうに見下ろす姿に胸が音を立てていく。


「だってさ、結依ってかなり前から俺のこと好きなのに、中々気持ち伝えてくれないし」

「なっ……なっ……」


何、その自信?

私にほほ笑みながら当たり前のように言うヒデに、目をパチパチさせる。

確かに間違ってはいないけど。


「違った?」


クスっと笑いながら口角を上げるヒデに返す言葉がなかった。



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