パントゥーフル ~スリッパの乱~
美樹は毎晩僕が帰るころには、風呂を終え、化粧を落としている。
朝も、ごはんのときはまだスッピンで、天パーの髪の毛がクルンとはねていることも多い。
長いことちゃんと化粧したとこを見てなくて、そっけない顔だと思っていた。

でも今、芝川女史の顔をどアップで見たら、目張りのようなアイラインと、けばいゴールド系のアイシャドウが目に入って、軽い吐き気を催した。
間近に見るもんじゃないな。

美樹の小じわの寄ったやわらかい目元のほうがずっとかわいい。
そう思ったら、芝川女史に言い放っていた。
「悪いけど君を慰める時間はない。家で可愛い奥さんが待ってるから、一刻も早く帰る」
日頃、会社に生活臭を持ち込まない僕がそんなことを言ったもんだから、彼女はあんぐり口を開け、返す言葉をなくしていた。


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